廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

-- 番外編:2nd Trip in銀魂 01 --

「ここ、は…?」

確か、崖から落ちたはずだった。

馬に慣れない悠希について、虎吉を走らせていた。
殆ど歩いているような速度ではあったけれど、二人はのんびりと言葉を交わしながら散歩を楽しんでいたのだ。
二頭の馬を休ませている間に、二人もまた、ひと時の休息を取った。

「向こうから水音がするわ!」

悠希がそう言って、林の中を走り出す。

「無闇に走ったら危ないわよ。このあたりは、私も知らな―――」
「きゃあ!!!」

悠希の姿が消えて、悲鳴が聞こえた。
迷う事なく駆け出した紅は、林を抜けた所でがくんと足場が消えた事に気付く。
体勢を立て直す暇などない。
リン、と虎吉の馬装の鈴が音を立てた。




そこから先は、暗いところに意識を引っ張られたので、記憶にはない。
そして、次に目を開いた時、彼女は死後の世界とは無縁の光景を目にした。
いや、実際に死んだ経験があるわけではないので、絶対に違うとは言い切れない。
しかし、死後の世界だとは到底思えないような、そんな光景が目の前に広がっていたのだ。

「町並みは、いくらか時代が進んでいるように見えるわね」

紅が目を覚ましたのは、薄暗い路地だった。
状況を判断すべく、足を進めながらも冷静に周囲を見回す彼女。
長らく見ていなかったポリバケツを目にした時、彼女の落ち着きが身を潜めてしまった。
戦国時代にはあるはずのないものが、ここにある。
まさか、ここは―――

「嘘…」

嘘だ、嘘だ、嘘だ―――!!
紅は自分の脳内に浮かんだ予想を否定してくれるものを求め、走る。
着物ではなかったことを喜んでいる余裕すら、今の彼女には存在していない。
両側に家が並ぶ路地を走る彼女。
立ち並ぶ家は、現代よりは些か古めかしい造りをしていた。
けれど、ここが現代ではないと否定するには、この風景だけでは判断材料が足りない。
もっと他の、決定的な何か―――それを求め、走る。
やがて、路地の出口が見えた。
ドクンと逸る鼓動を感じつつ、そこへと足を進める。









ザッと地面に足を滑らせる。
目の前に広がった光景は、大まかな所では紅の期待を良い意味で裏切るものだった。
ここは、現代ではない。
しかし―――

「…どこ?」

町並みからすると、紅の予想通りに戦国時代よりはいくらか進んでいる。
だが、そんな簡素な町並みには不似合いなものが、遥か遠くに見えていたのだ。
その建造物は、古めかしい建物からは抜きん出た大きさだ。
そして、何より…技術が、進歩しすぎている。
違和感を覚えるのに、どこかその町並みに馴染んでいるようにも見えるそれ。
近代的な空気を思わせるそれを見つめ、紅は愕然とした。
夜という時間のお蔭で、通りに人の姿はない。
それが紅にとって幸か不幸かはわからなかった。
ただ、この不自然すぎる反応を誰かに見られることがなかったという事は、ある意味では幸だったのだろう。












突然、ゾクリと背筋が逆立った。
この現象を知っている。

これは、殺気だ。

本能的に、刀を抜きながら振り向こうとした紅は、背中に添えられた何かの存在に気付き、動きを止めた。
気配に気付かなかったのか、気付けなかったのか。
今の彼女には、それすらわからなかった。
ただわかっている事は、誰かが背後に居て、紅の命を握っているということ。
感覚や空気の鋭さから、背中に添えられているものが刀の類であると理解する。
つぅ、と頬に汗が流れた。

「おい」
「!」

背後の人物からの声に、紅は驚いた。
そして、その声を聞くなり、警戒心が一気に解けてしまったのを感じる。
依然として刀を押し当てられたままだというのに、彼女は振り向いた。

「さす―――け?」

その声を持つ人物の名を呼んだはずだった。
しかし、目の前にいるのは―――誰だ?

「…動くな」

今度は正面から刀を首に押し当てられる。
触れれば切れそうな鋭い視線は、普段の佐助には見られないものだ。
包帯によって片方の目を隠しているその男は、鋭利な眼で紅を睨みつけている。

「動くなよ。…てめーにいくつか聞くことがある」

声だけは間違いなく佐助のものだった。
けれど、違う。
全く同じ声を持っていながら、雰囲気も身体も、声以外の全てが異なっていた。






見詰め合ったまま…いや、片方は睨んでいるのだから、その表現は間違っているのかもしれない。
そうして数秒を過ごした二人の耳に、バタバタと駆けて来る足音。
複数の足音を聞いた彼は、チッと舌を打って紅の腕を掴んだ。
気遣いなど微塵もなく、強い力で路地の中へと彼女を引き込んでいく。

「ちょ―――!」

文句を告げようとした口は、グッと首に突きつけられた刀により、閉じる他はなかった。
不満を覚えつつもとりあえず引かれるままに歩いた彼女の耳が、別の声を捉える。

「見つかったか!?」
「いえ、どこにも…!」
「探せ!!この辺りに居るのは間違いねぇんだ!!」

この、声は。
紅が足を止め、声が聞こえる通りの方を振り返ろうとする。

「ま―――」

言葉は腹部に走った痛みにより、掻き消された。
沈み行く意識の中、閉じていく視界で、自分を見下ろす鋭い独眼を見た気がした。

09.05.31