廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

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久し振り、と悠希が笑った。

「お土産は城の人に渡しておいたからね。きっと、今日の夕餉は豪華になるわよー。
今が旬の魚、山ほど獲ってきたから。楽しみにしててね!」

立て板に水のように、語り出したら止まらない彼女の口。
一つを問えば、その三倍くらい言葉が返ってくるのだから、紅が思わず引いてしまうのも無理はない。

「悠希、あなた…子供はどうしたの?」
「今は船慣れの最中だから、元親と一緒に漁に出てるの。あとひと月くらい帰ってこないんじゃないかしら」

あっさりと言ってのける彼女に、呆れる。
確か、彼女の子供はまだ1歳半ほどだ。
父親が一緒とは言え、それでいいのだろうかと疑問に思う。

「大丈夫よ。信親だってそうだったらしいから。海の男って言うのは皆そうらしいわ」

私も驚いたんだけど、と笑う彼女は、既に納得しているのだろう。
これ以上ないと言うくらい元親の考えに染まっていることを、良いことだと喜ぶべきだろうか。
紅は自分の時はどうなるんだろう、と乾いた笑いを零す。
何だか、他人事ではない気がした。

「あ、そうそう。言いそびれてたけど…おめでとう、紅」

本当に、今更だ。
けれど、その言葉が嬉しくないはずがない。

「自分のことみたいに嬉しいよ。1年半程度の先輩だけど、わからないことはどんどん聞いてね」

わかる範囲でフォローするから、と拳を握った彼女に、ありがとう、と答える。

「ここから先10か月は大変だからねー。たぶん、城の皆には思い切り止められてるんだろうけど…。
そのうち動きにくくなるんだし、今のうちに出来ることはしておいた方がいよ」
「…流石によくわかってるわね」
「私の時もそうだったから。周囲の方が過保護になっちゃって、煩いのなんのって…」

あれは大変だったわー。
彼女はそう言うけれど、きっと大変だったのは彼女を止めていた周囲の方だ。
恐らく、彼女は言われたって半分も言うことを聞かなかっただろうから。
現に彼女は、妊娠が発覚してすぐに奥州へとやってきた。
少しは周りの言うことを聞こう―――まさに、人のふり見て…と言う誓いだ。

「さて、と。じゃあ、早速行こうか!」
「行くって…どこに?」
「城下町の甘味処巡り!!」

そんな予定があったとは初耳だ。
呆気に取られる紅から、上着二枚ほどを引っぺがす悠希。
そして代わりに、外出用のそれを楓に用意させて、瞬く間に準備を終えてしまう。

「よし、出発!」

絶対反対されると思っていたけれど、家臣たちは寧ろ笑顔で二人を送り出した。
お供が誰もいないのは、当然のことのように氷景がついているからだ。

「何で誰にも反対されないの?木刀を握るだけで飛んでくるのに」
「そりゃあね。戦関連の血生臭いことに関わるより、甘い物でも食べに出かけてもらった方がいいってものでしょ」
「…そう…言うものなのかしら」

やや納得できない部分はあるけれど、平和に暮らしてほしいと言う気持ちは素直にありがたい。
反対されないならば、まぁいいか、と自分を納得させ、傍にいるだろう氷景の気配を探る。

「仕事があるなら、しててもいいわよ?」
「これが俺の仕事だ」

どこからともなく姿を見せた氷景に、紅は、そう、と頷いた。
来るなと言っても聞かないだろうから、無駄なことはしない。
よろしくね、と笑顔を見せれば、彼もまた小さく微笑み、そして姿を消した。
姿は見えなくなったけれど、気配だけは感じられる。

「はー…何度見ても不思議よね…忍って」
「そうね。私はもう慣れたけど。じゃあ、行きましょうか」
「うん!紅のおススメのお店は全部回るわ!!」
「豪勢な夕餉になるなら、二ヶ所が限界よ」

城下町にはいくつかの甘味処があるけれど、その全てを回るとなれば一日では到底足りない。
朝昼夜を全てそれに費やせば不可能ではないだろうけれど、そう言うわけにもいかないのだ。

「そっか…そうよね。よし、じゃあ選出は紅に任せるわ」
「ん。今日は…あっさりと食べられるお店にしましょうか」

行ってらっしゃいませ、と見送られ、二人は城下町へと繰り出した。














城に戻った政宗は、紅の気配がないことに気付く。
彼女ほどに広範囲を察知することは出来ないけれど、それでも人並み外れた感覚だ。

「紅はどうした?」

政宗は彼女に付けてある侍女の楓を呼んだ。

「紅様は悠希様とご一緒に城下町に降りていらっしゃいます。甘味処巡りをなさるそうで」

半刻ほど前に笑顔で出発なさいました。
主人が楽しげだったことが嬉しいのだろう。
楓もまた、笑顔でそう告げた。

「あぁ、そうか。悠希がもう着いたんだな」

返答に納得した政宗は小十郎にいくつかの指示を出す。
そして、改めて楓に向き直った。

「悠希の今回の滞在期間を聞いてるか?」
「…それが―――」















「四か月!?」

店の中だと言うのに、思わず大きな声を上げてしまった。
ハッと我に返った紅が店主の方を向くと、彼は気にした様子もなく人の好い笑顔をくれる。
その事にほっと安堵し、原因へと視線を戻す。

「四か月ってどう言うこと?」
「そのままだけど。あ、子供のことなら大丈夫よ。漁から帰ったら元親も奥州に顔を出す予定だから」
「そうじゃなくて!」

微妙にかみ合わない会話に、紅はまずは自分が落ち着こうと深呼吸。

「悠希の時、私はそんな風にあなたの所にいってあげられなかった。
それなのに私の時だけそんな風にしてもらうのは不公平よ」
「今更、公平性を説くような関係でもないでしょー」
「それはそうだけど…」

何でもないことのように話す悠希に脱力した様子の紅。
悠希とは長い付き合いだから、言っても無駄だと言うことはわかっているつもりだ。
けれど―――これだけは、言っておかなければ。

「他国の奥方を四か月も奥州に縛るなんて出来ないわよ」
「あ、それも大丈夫。元親の名代ってことになってるから。貿易関連でちょっと奥州で動かせてほしいのよね」
「………抜け目、ないね」
「実は、良い時期だと思って、提案しようと思ってた矢先だったのよ」

だから気にしなくていいのだと悠希は言う。
それで全てが解決するわけではないけれど、少なくとも理由としては成立していた。

「貿易に関しては政宗様に聞かなければわからないわ。恐らく駄目とは言わないでしょうけれど…」
「うん。ちゃんとした書状も携えてるから、私から話すわ」
「…一応、奥方としても働いてたのね」

小さく呟く言葉に無理はないと思う。
当たり前でしょ、と唇を尖らせたけれど、悠希も決して完全否定はできないところだろう。
久し振りののんびりとした時間は、瞬く間に過ぎて行った。

10.11.21