廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

-- 056 --

「佐倉悠希、20歳。趣味は読書と人間観察。特技は毒舌…は姉貴の専売特許だから…んー…歴史に強い事?
あぁ、でもこれは役に立たないか。他の教科はほぼ全滅なんだし。あ、泣き落としには自信があり!それから…」

ペラペラと喋る事、立て板に水を流したかの如く。
冷静に苦笑を浮かべていられるのは、所謂「慣れ」と言うもののお蔭だろう。
自己紹介をしろと言ったが、何もここまで事細かく説明しろとは言っていないのだが。
そんな思いを込めて女性…悠希に視線を向ける。
それに気付いたのか、彼女は大丈夫!と言う笑みを浮かべて、こう締めた。

「紅とは数年来の親友です。よしなに」

最後の言葉に、紅はクスリと笑ってしまった。
彼女は自分よりも遥かにBASARA通で、いつかはこの言葉を使ってやる、と意気込んでいたのを覚えている。
だからこそ、自分もその言葉を覚えていたわけだが…やる事は同じなんだな、そう思うと笑いが込み上げてきた。

「…口から生まれてきたみたいな女だな」

ポツリと。
政宗は悠希が自己紹介を終えるなり、そう呟いた。
呟いたのだが、結構な音量だったそれは部屋の隅々まで行き渡る。
同意を示したのは、一体何人くらい居たのか気になる所だ。
ちなみに、現在この部屋の中は何だか息苦しさを感じるほどに人口密度が高い。
その理由はいたって簡単。
紅が『随分な挨拶』と称したあの出来事が原因である事は、想像するに容易いだろう。
派手な音を聞きつけ、下がれと命じられた筈の家臣が部屋の中に雪崩れ込んできたのだ。
お蔭で、障子に加えて襖が三枚ほど駄目になってしまった。

「…とりあえず、これでお分かりいただけたかと思いますが…私も本人も認める、親友です」

心配はありませんよ、と言う紅の言葉に、漸く家臣の緊張が解けた。
一人、また一人と紅に頭を下げてから部屋を出て行く。
それを見送り、数分後には先ほどと同じ状況が出来上がった。
と言っても、あの時は姿を隠していた氷景が紅の斜め後ろに控えている所は変わっているけれど。

「小十郎さんには要らぬ心配をお掛けしてしまいましたね。ごめんなさい」

人が居なくなるなり、紅はそう言って頭を下げた。
畳に額をつけるほどではないにせよ、その行動は明らかだ。
先ほどまでは全く気にしていない様子で家臣たちに接していた紅。
実はずっと気にしていたのだと気付いていたのは、恐らく一番付き合いの長い悠希だけだろう。
しかし、何故今の今までその謝罪を置いておいたのか…彼女には、それが分からなかった。

「紅様が気にする事ではありません。お怪我がなくて何よりです」

だから、どうか頭を下げないでほしい。
そう言って苦笑に似たそれを浮かべ、小十郎は紅に頭を上げさせる。
悠希は小十郎が一声上げるなり、思わず目を見開いてしまった。
ゲーム内では流石伊達軍、と思えるほどに口がよろしくない彼だ。
そんな彼が、政宗に向けるような言葉遣いで紅に話しているではないか。
よく考えるまでもなく、彼女はこの城の城主だ。
彼との身分の差を考えれば当たり前なのかもしれないけれど…それにしても。
認めた者以外には服従心など欠片も見せそうにない彼。
そんな彼を、この親友は認めさせたということなのだろうか。
俄かに信じられない光景が、目の前にあった。

「悠希?」

目ざとくその心の内の驚きに気付いたのか、紅が小さく名前を呼んだ。
咄嗟に何でもない、と答えたけれど、きっと納得はしていないだろうと思う。
表情からそれを読み取る事ができるほどに、自分達は仲が良いのだ。

「所で…まさか、こんな所で悠希に会えるとは思わなかったんだけど…?」

どう言う事なの?と言う意味を込めて、紅がそう問いかける。
悠希は彼女を見てから、チラリと政宗たちに視線を向けた。
だが、それは一瞬の事。

「?…そう言う事ね。…政宗様。以前私がお話した秘密を覚えていただいていますか?」
「ん?あぁ、当然だろ」
「ありがとうございます。では、それを小十郎さんや氷景には?」
「話していない」

そう答える彼に、紅は少し嬉しそうに微笑んだ。
もし、彼が「話した」と答えたとしても、責めるような考えは微塵も浮かばなかっただろう。
しかし、自分の秘密を他言しないで居てくれた事が、素直に嬉しいのだ。

「全て話しましょう。きっと…この二人には、知っておいて貰った方がいいでしょうから」

そう言うと、紅はゆっくりと腰を上げた。
そして、閉ざされた襖の方へと近づいていく。
因みに、先ほど人の波によって壊された襖は、すでに代理のものを用意してもらっている。

「暫くの間人払いをお願いします」

襖を開いてそこに待機している者に声をかける。
は、と短い答えと共に、彼らはすぐに踵を返した。
それを見送り、更に気配も完全に消えたところで、紅は襖を閉ざして戻ってくる。
それから、彼女は少しだけ躊躇うような表情を見せた。
助けを求めるつもりなどなかったのに、本能が自然と目を動かしてしまう。

大丈夫だ。

そう告げる政宗の眼差しとかち合い、彼女は頷いた。
そして、小十郎と氷景を交互に見てから、ゆっくりと口を開く。
















全てを説明し終えると、紅は悠希の方を見た。
彼女自身も、自分の説明を真剣に聞いていたところを見ると、自身の状況と比較していたのだろうか。
その真意全てを悟る事は出来ず、すぐに視線を移した。

「無論、政宗様は信じておられるのですな?」
「あぁ」
「ならば、信じることに致しましょう」
「そこまで強制するつもりはないぜ?」

自分の意思でちゃんと決めろよ?と言いつつも、その表情は確信に満ちている。
恐らく、彼は小十郎の答えが変わらないことくらいは分かりきっているのだろう。
そして、小十郎もまた、彼のそれを裏切る事はない。
一人の意見は分かった、ならばもう一人は。
自然と、視線が沈黙していた氷景へと集中する。
彼は肩を竦めて答えた。

「…主人の言う事だ。信じないわけはないだろ」

そもそも、紅がどこの出身でどんな人間かなど、彼には関係ない。
ただ、自分が知ったその人柄を主と認めたのだ。
今まで根無し草でとりあえず伊達軍の筆頭である政宗に着いていた自分。
そんな彼が、自分から選んだ主人を疑う筈はない。
分かりきっていた事ではあるのだが、こうしてはっきりと告げられれば自然と安心できると言うもの。

「話が一段落ついたところで聞きたいんだが…そいつは、お前の親友だって言ったな?」
「はい」
「なら、そいつも未来から来たのか」

政宗の言葉に答えたのは 紅ではない。
彼女は、自分も聞きたかったのだ、とばかりに悠希に視線を向けたのだ。
その視線を受けた悠希は、用意された茶を一口飲んでから答える。

「もちろん。そうじゃなきゃ、 紅と親友なんて出来ないわ」
「それより、どのくらい経ってるの?私が居なくなって、向こうはどうなってる?」
「あー…それ、何だけどさ…」

言い難そうに、しかし言わなければならないのだろう。
悠希は懐から小さくて黒い何かを取り出した。
紅からすれば身近ではないにせよ、覚えのあるもので、他の者にはそれが何かは分からないようなもの。

「ほら、紅のお母さんさ。昔っからよく未来を言い当ててたでしょ?」
「…悠希が怪我するとか、部屋の床が抜けるとかね」
「それ、夢見っていう未来を夢で見るって言う能力だったらしくて…いや、現実離れしてるのはわかってるんだけどね。
とにかく、紅が居なくなるのもわかってたみたい。あの電話の後に紅の実家に言ったら話してくれたのよ。
それで、一緒に古文書を探して、見つけて…」
「…結論は?」
「あんたは、あんたの家の先祖である可能性が高いって事。家系図の隅の隅に書かれてたわ」

予想していなかったわけではない。
この時代で、自分と同じ苗字の者に出会い、討ち、そして当主の座に落ち着いた。
改めて告げられると、あぁ、なるほど…と言う想いがこみ上げる。
そして、紅は悠希に渡されたそれのスイッチをカチッと押した。

07.06.13