廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

-- 019 --

話せば話すほど、面白い人だと思った。
ふと思いついて武田の総大将についての話題を振ってみた所、彼は延々と飽く事無く彼について語っている。
そう、それは太陽の角度が変わったのが分かるほどに長い時間かけて。
自分で振った話題なのだが、今更にどうしようかなぁと思う。
嬉々と武田信玄について語る彼を見ていると、どうにも止められない。
団子を食べるのも忘れて先日の戦の際の信玄についてを語ってくれる彼に、紅はそっと肩を竦めた。

「素晴らしい武人ですね。私も、一度お会いしたく思います」
「おぉ!紅殿もお館様にお会いすれば、きっとその素晴らしさがわかるでござるよ!」
「それは楽しみですね。でも、私はしがない流れ者ですから…」

そう答えた所で、紅はピクリと肩を揺らした。
幸村の方は気付かなかったようだが―――誰かが近づいてきている。
すでに道行く人々のその数を増やしているが、彼らではない。

「探したぜ、旦那」

ストン、と彼はそこに降り立った。
緑を基調とした迷彩の服と、彼の性格を現すようなその明るい髪がふわりと揺れる。

「おぉ!佐助!」
「おぉ、じゃないぜ。村中探したんだからな。って言っても、ここが一番初めだけど」

そう言って悪戯に笑う彼に、紅は言葉もなくその会話を見守る。
何と言うか、不思議なくらいに、恐いくらいに、順調に進んでしまっている。
真田幸村との対面を果たし、それから2時間ほど。
次なるキャラクターの登場に、紅の心は高鳴った。
もう、疑惑の心はない。


真田幸村、猿飛佐助。
この2名は、悠希の話していた通りの容姿と、そして性格だ。
正直な所、これが自分自身の世界の過去の時代だとすれば、驚きを隠せない。
この時代にすでに迷彩服が?などを疑問が後を絶たないのだ。
間違いなく、ここは悠希がのめり込んでいたゲーム―――戦国BASARAの世界そのものであった。

「それにしても…お館様に任された視察を放り出して団子?」
「す、すまぬ…。すっかり話し込んでしまった」
「そりゃ珍しい。こちらさんは?」
「紅殿だ。茶と団子をご馳走に――――あ!佐助!!某の財布を知らぬか!?」
「財布ぅ?生憎、旦那の財布の紐まで握った覚えはないぜ」

何故ここで財布の話が?と怪訝な表情を見せてそう答えた彼に、幸村は肩を落とした。
そんな彼を励ます佐助と、励まされる幸村を見て、彼らの関係が悠希の話していたままだと悟る。

「それにしても、何で財布?」
「いや…某、ここで団子を買おうと思ったのだが、その時にはすでにどこかへ落としていたらしく…」

声も肩も落としてそう告げる幸村。
そんな彼に、佐助はポリポリとその頬を掻いて苦笑する。

「まだそんなに時間は経ってなんだから、探せば見つかるって。国境くにざかいで荷物を確認した時にはあったんだろ?」
「国境?」

佐助の何気ない一言に、今まで口を噤んでいた彼女がそう声を上げた。
二人の視線がクルリとこちらを向くも、彼女は気にする事無く続ける。

「国境って…あちらの方ですか?」

そう言って、紅は自分が来た方を指差す。
そうすれば、幸村と佐助は同時に首を頷かせた。

「あぁ、そうだぜ。ちょっと向こうに用があったんでね」
「それなら、ひょっとして…」

紅は着物の合わせ目に手を通し、懐から例の財布を取り出す。
すっかり忘れていたのだが、目の前に財布をなくした人物が居るのだから、駄目元で聞いてみればよかったのだ。
今更だな、と自身に苦笑しながら、紅はそれを彼らに見えるように差し出した。

「こちらに見覚えは?」
「そ、それは某の財布!!」

どうやら、当たりらしい。
まるで食いつく勢いでそれを受け取ると、彼は安堵の表情で喜びの声を上げる。

「あんた、どこでこれを?」
「向こうの林です。夜明けの頃に通った時に、道端に落ちていたので…」

この村に預けようと思って持って来ました、と答える。
懐かしい友との再会を喜ぶような幸村を傍観しながら、ふと、思い出したように彼は紅を振り向く。

「紅…だっけ?」
「雪耶紅と申します」
「どうもご丁寧に。俺は猿飛佐助。ありがとな、旦那が世話になったみたいで」
「いいえ。寧ろ、こちらも助けていただきましたから」

そう言って、視線を幸村と自分の間に置かれた大皿に向ける。
彼の活躍により大方無くなってはいるが、それでもまだ十数個残っているそれ。
その皿の大きさと残りの量、そして彼女の言葉から、ある程度の状況を把握したらしい。
なるほど、と苦笑した彼に、紅は似たような笑みを返した。

「紅殿!団子の金を返すでござるよ!」
「構いませんよ。私の方が困っていたんですから。それに、奥さんがいくらかお安くしてくれるみたいですし」
「しかし…団子をご馳走になり、財布も拾ってもらって…何か礼をせねば、某の気がおさまらぬ」

どうすべきか…と腕を組む幸村。
そんな彼に、紅と佐助が顔を見合わせた。
何と言うか―――律儀な人だ、と思う。
こちらが構わないと言っているのだから、素直に受けておけばいいのに。
そうは思うけれど、これが彼の良い所なのだろう。

「旦那。そんなに気になるなら、金以外で返す方法を考えたら?」
「おぉ、それは良い考えだ!何か良い案はないだろうか…」
「ですから…楽しいお話を聞かせていただけたので、それで十分です。お館様の素晴らしさも分かりましたし…」

確かにお金は要らないが、彼に何かをして欲しいわけでもないのだ。
これは、何かを頼まない限り引き下がってくれそうにない彼に、困り果てる。
旅の時間は短いのだ、あまり長く時間を取っている余裕はない。
それを理由に去ろう、と考えた紅の前で、悩んでいた幸村が「おぉ!」と何か思いついたように声を上げた。

「ならば、この幸村がお館様に取り次ごう!それを、此度の礼と思ってはいただけぬか?」

そんな独断で領主との謁見を決めていいのか?と言う疑問は、この際飲み込んでおこう。
確かにここまで来たのだ、甲斐の武田も悠希の話していた彼に相違ないのかは確かめておきたい。
けれど、ここで即座に頷いてはいけないような気がした。

「武田様は一国の領主。このような流れ者とお会いすべき相手ではないでしょう」
「案ずるな、お館様はお心の広い方にござる」
「いえ、そう言う問題ではないのですが…」

何も、一国の主に会おうなど恐れ多い!と思っているわけではない。
そんな事を心配するなら、政宗からあれやこれやとしてもらった過去を思い出せば気絶ものだ。
今だって、彼の部下の用意してくれた着衣を纏い、彼から譲り受けた馬と共に旅をしている真っ最中なのだから。

「碌なもてなしは出来ないけど…ここは、頷いてもらえない?」

じゃないと納得しそうにないしさ、と小声で告げる佐助に、紅は肩を竦めた。
ここで更に首を振ったところで、幸村が納得しないのは明白だ。
それならば、と紅は口を開く。

「では…武田様に、お目通りをお願いできますか?」

紅の言葉に、幸村は嬉しそうに破顔した。

07.03.04