文化祭 7
『今年のクラス総客数トップは………』
全校生徒がグラウンドにて放送に集中する。
そんな中暁斗と成樹は屋上からその風景を見下ろしていた。
暁斗はすでに女装を解いて、いつものように学ランを着用済みである。
男装しているのがばれないように女装をすると言うのは、そうそうできる経験ではない。
出来る事ならば、ないにこしたことはない経験なのだが…終わってみれば、それなりに楽しんだかもしれない。
そんな事を考えながら、暁斗はグラウンドに見える生徒の頭を眺めた。
「おー…この学校って結構生徒数多いんだなぁ」
「初めて見たわ…」
「俺も。式と名のつく奴は出たことねーから」
ちなみにこの二人、入学式すら出ていない。
その頃にはまだ仲が良かったわけではないので、サボったのは別々の場所だ。
担任に小言を言われたが、一発目の試験で見事に首席を取ったためにそれ以上文句は言われていない。
「まぁ、結構クラス数もあるからな。このくらいの数にならないと、逆におかしいか」
「せやなぁ」
屋上の手すりに身体を預けながら暁斗が言った言葉に対し、成樹がのんびりと答える。
すでに日は傾き始め、徐々に赤みを帯びてきていた。
その夕日が二人の表情を照らす。
「…おー。先生方もお集まりで」
「全員集合しとん?」
「どうかね。ああ、生徒指導が走り回ってるよ。こんな時くらいは見逃してやればいいのに…」
ククッと喉で笑う彼女の視線の先には、必死で走り回っている教師の姿。
見覚えのある肌色交じりの頭の持ち主は、校内でも煩いと有名な生徒指導教師だ。
こんな時くらいは少しくらいはめを外しても問題はないだろう…そう思うのが生徒の視点での意見。
他の教師は見て見ぬ振りをしているのだから、彼もそうすればよいのだ。
それが出来ないからこそ、煩い教師とありがたくないお言葉を頂戴する事になっているのだろうけれど。
「っつーか、アレはどう見ても無駄足やろ…。明らかに相手にされてへんで」
「あの人頭固いし、足遅いし…仕方ねぇって。あ、また一人逃げられた」
「ご愁傷様やな」
「ま、俺らはここにいるから関係ねーけど」
あの場にいれば、9割以上の確立で追いかけられることになったはずだ。
補足するならば、追いかけられるのは成樹だけであって暁斗は違う。
何だかんだ言っても、成績が良すぎる生徒にはあまり強く言えない所は、他の教師とも変わりない。
友人は選ぶべきだ、と言われる程度なのである。
因みに、成樹は彼の中ではトップクラスに要注意生徒となっている。
「……………なぁ、暁斗。あれ、カザやんな?」
「んー?……どれ?」
生徒達は並んでいるわけではなく自由にグラウンドに集まっていた。
故に何百人からその一人を探す事になる。
正直、視力にはそれなりに自信のある暁斗でも、簡単な作業ではない。
「あのちっこいの」
「ちっこいって…本人気にしてるんだから言ってやるなよ…」
「せやけどアレは有利な面もあるで?」
「ま…確かに。あれは……竜也か?」
「………どこや?」
「ほら、あのポールのとこに立ってる奴」
暁斗の指の延長線上を辿るようにして目を凝らし、漸くその姿を捉える。
まるで、一昔前に逸った絵本のようだ。
大量の人物の中から、眼鏡の彼やらその落し物やらを探し出すという、あれだ。
説明できない面白さに魅了され、寝る間も惜しんでベッドに絵本を開いた覚えもある。
「あ、ほんまや。ようわかったなぁ…」
「や、アイツの周りだけ女が異様に多いから」
「……………なるほど」
「…ってことは俺も下にいればああなってたわけだな」
「自覚あったんや?」
「あるに決まってるだろ…。昨日今日で嫌って程痛感したよ…」
「そ、そやな…」
暁斗の言葉にはものすごく説得力があった。
詰まらせながらもそれに納得する成樹。
「所でさ…総客数の一番多かったクラスって何か賞品あったっけ?やたら張り切ってたみたいだけど…」
「ああ。なんや、自由時間を5時間分もらえるらしいで?聞いた話やけど」
「へぇー…」
成樹に向けていた視線を再び下へと移す。
そこには仲間内で喜びを分かち合う姿や肩を落とす生徒の姿が見受けられた。
「でもさー…」
「なんや?」
「自由時間がもらえたって結局は全部自分の負担にならねぇ?
授業が免除されるわけじゃねぇからテスト範囲まで行くのが大変になるし」
それ位なら金一封の方がどれほど嬉しいか。
そう言った暁斗に、よく考えれば確かに、と思う成樹。
結局自分達が忙しくなるならば、いっそ自由時間など貰わないほうがありがたい。
「………そうやな」
「つーか誰も気づかないわけ?」
「みたいやな」
「竜也なんかは気づいてるっぽいな。特に反応なしだから」
「冷静な奴やなぁ…」
「さすがはサッカー部自慢の司令塔、だな」
「精神面が弱いんが玉に瑕、やけどな」
どこかからかうような口調でそう言った成樹に、暁斗は僅かに口角を持ち上げた。
確かに、彼の精神面の弱さと言うのは今後の課題になってくるだろう。
しかし、それを差し引いても十分なだけの素質は持っているのだ。
それに―――と暁斗は思う。
「完璧じゃないのがいいんだって。人間完璧だと気持ち悪いだろ。どっか欠点があるのは当然」
「暁斗らしい考え方やな」
「だろ?ま、父さんの受け売りだけどな」
その時、誰かが持ち込んだらしい打ち上げ花火が暗くなり始めた空へと上がった。
生徒達の歓喜の声が上がる。
もちろんそこには犯人を捜して走る先生の姿もあったが。
「へぇー…度胸あるなぁ」
「中々やるやん、誰か知らんけど」
「あーあ…また走ってるよ、あの先生。もう歳なのに可哀相に…」
「ええ運動になるやろ」
「くすくす…だな」
「ま、何にしても……文化祭無事終了!やな」
「おう。お疲れさん」
再び花火が空へと打ち上げられた。
後日、いつの間にか撮られていた暁斗の女装姿が飛ぶように売れていたのは本人の知らぬことである。
Rewrite 07.09.18