私的親友概念
周りはわかってくれないんだ。
『親友』だって言っても。
それでも、別に構わない。
たった一人、お前さえわかってくれていれば。
「大した人気ですねぇ、サンガの成樹サン?」
目の前にあるストローを弄りながら紅がにっこりと微笑んだ。
隣には苦笑気味の成樹の姿。
カウンター席に座ったためにそう言う位置関係になっているのだ。
紅が怒っている、と言うか呆れているのは環境に原因がある。
「何?お前ってそんなに有名?」
「まぁ…それなりに活躍しとるしなぁ…」
「“それなりに活躍”してる奴のためにカメラが5台も来ていいわけ?」
紅がそう言いながら、ガラス越しに後方へと視線を送る。
本人達は隠れているつもりなのか、はたまたそう言う演出なのか…。
パッと見ただけでも4台のカメラのレンズを見つけることが出来る。
内、3台はかなり本格的なものだった。
「あれってどう見てもTV局やんな」
「に見えるな」
「っちゅー事は?明日の朝には新聞の一面とか飾ってたり?」
「それはないと思う」
若干薄くなってしまったアイスティーをストローから吸い上げると、紅はきっぱりと答えた。
成樹が不思議そうに紅を見やる。
「明日は“フィールドの舞姫”初披露だから」
「そうなん!?聞いてへんけど!」
「今日言うつもりだった。まさかこんな所で教える事になるとは思わなかったけど」
「……悪かったって」
「…ま、お前に言っても仕方ないし…。私だって成樹の有名さを甘く見てた」
それなりの人通りをキープしている道に面した喫茶店。
これで気づくなと言う方が無理だったのかもしれない。
「とにかく…。一旦ここ出よか」
「…だな」
紅が自分の言葉に頷いたのを見ると、成樹は椅子から立ち上がる。
隣の席に下ろしていた荷物を持ち上げ、紅も成樹の後を追った。
「払おうか?」
「ええって。誘ったんは俺やし」
「そっか…。ありがと」
そう言うと、紅は成樹がお金を払っている間、見るともなしに店内に目を向けていた。
「(…1・2・3……。)」
カメラマンの数を数えるのも忘れない。
「紅、行くで」
「ん」
「ありがとうございましたー」
店員の声を背中で聞きながら、二人は喫茶店を後にする。
「カメラマンからすれば最高のネタだよな。“サンガの藤村成樹に恋人発覚!?”ってな」
成樹と肩を並べて歩きながら、紅はクスクスと笑った。
「別にええけど?」
「そう言えば…これで何回目?」
「…何のことや?」
「そう言うネタで報道されるの」
風の所為で乱れた髪を手櫛で整え、紅が成樹に尋ねた。
成樹はきょとんとした表情で紅を見つめる。
「された事あらへんで?」
「………マジ?」
この答えには紅も思わず聞き返してしまった。
紅から見ても成樹はかなり男前だとはっきり言える。
そんな男前と並んでも引け劣らない紅だったが。
それなのに、この男は今まで報道されていないと言うではないか。
「芸能人とちゃうねんから、マスコミもそないに注目しとらんって」
「ゴールデンエイジ以上の黄金世代って言われてるのに?しかも成樹は付き合いよさそうだし」
「何?心配してくれとったん?」
成樹の嬉しそうな笑顔に、紅もにっこりと笑顔を返した。
「もちろん。女に現抜かしてレギュラー落ちしてるんじゃないかってね」
「…相変わらずキツイなぁ、自分…」
「そっか?向こうでもこんな感じだったけど」
こんな感じで世間話を進めながら歩く二人だったが…。
周囲の視線を集めないはずがない。
方や、有名なサッカー選手。
しかも容姿も悪くない……むしろかなりいい部類に入る。
方や、モデル並の容姿の女性。
今は無名だが……明日になればTV、新聞などのマスコミをにぎわす事は確実である。
「………なぁ、あれって私達を尾けてきてるつもりかな…」
「十中八九せやろなぁ」
「…いい加減ウザイ」
「撒くか?」
「いいね、それ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
その拍子に背後からフラッシュが光っていたが…この際それは無視しておこう。
「行くで!」
成樹の声と共に、二人は走り出した。
通行人を撥ねないように気をつけながら走る。
もっとも、DFの隙間を縫って攻めるFWの彼らにとっては造作もないことだったが。
「ま、追ってこれる筈ないか」
数分後にはすでにカメラを撒いた二人。
大荷物を抱えた彼らがスポーツマンである二人を追う事など到底不可能だ。
「当たり前やろ。追ってこられたら逆に悲しいわ」
「…確かに」
二人は息一つ乱していない。
歩調を合わせるように並んで歩く。
いつの間にか人通りの多い道から逸れていたらしく、二人を噂する人物は誰もいなかった。
「明日は大変なんやろ?」
「まぁ…。初めてだしねー…生中継だけはキャンセルしたけど」
「何で?」
「朝早いのは勘弁。まだ微妙に時差ぼけが残ってんの」
ふと、二人が進む方向に小さな公園を見つけた。
どちらともなくその公園内へと足を踏み入れる。
そして、質素なベンチに腰を降ろした。
頬を撫でていく風が心地よく、紅は微笑を浮かべてその目を閉じた。
05.03.17
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