幼い記憶  エドver.

チョーカーが揺れた。
ゆっくりと視線を上げれば、前に居るエンヴィーが笑みを浮かべる。
その笑顔はどこか寂しくて……。
エンヴィーがコウの気持ちに気づいたのだと、はっきりとわかった。

「エンヴィー…私…」

震える唇で紡ごうとするが、上手く言葉にならない。
そんなコウを見て、エンヴィーがチョーカーに手を伸ばした。
クロスを持ち上げて、優しく微笑む。

「わかってるよ」

愛おしむ様に、クロスを指で撫でる。
そして、コウへと視線を向けた。

「俺の所に来ない事くらい、わかってたから。そんな顔しないでよ」

そう言うエンヴィーの笑顔は、悲しみを宿していた。


師匠として、彼はずっと傍に居てくれた。
両親を失ったばかりの時、傍に居てくれたのは、エンヴィーだった。
彼の優しさがあったからこそ、ここまで来れたのだと思う。
エンヴィー以外の言う事だったから、真実すらも受け止めることが出来た。
この記憶は本物。
そして、彼への思いも―――













「ごめんなさい…」
涙が頬を伝う。

選べなくて。
差し伸べてくれた手を、自ら振り解く事になって。

色んな意味を込めて、その言葉を紡ぐ。
伝う涙は、エンヴィーによって拭われた。

「泣かないで」
「ご…めんなさい…っ」
「謝らないで」

エンヴィーはそう言いながら、もう一度伝う雫を拭う。

「お願いだから……謝らないで。笑って?」
「――――っ……」

そう言われて、コウは俯いた。
数秒足元に視線をやると、ゆっくりと顔を上げる。
そして、涙を溜めながらも微笑んだ。

「……ありがとう」

今までの感謝を込めて、エンヴィーにその言葉を伝える。

「大好きだよ、コウ」

エンヴィーはコウの頬に軽くキスを落とした。
そして、彼女から離れる。
自分とコウを見つめるエドにただ一度視線を送ると、振り返った。
部屋に残る二人に背中を向けて、エンヴィーは階段を上っていく。

「…っ!本当に…好きだったからっ!」

クロスを握り締めて、そう叫ぶ。
エンヴィーは返事の代わりに軽く手を上げてその部屋を去っていった。









「コウ…」

エドが遠慮がちに声をかける。
その声に、コウは一度深呼吸するとクルリと振り向く。

「私、やっぱりエドと一緒に居たいから」

未だに涙の溜まる眼。
それでも、コウはそう言って微笑んだ。

「エンヴィーの事は忘れられない。だって……彼は傍に居てくれた人だったから」

揺れるクロスを指で遊ばせて、話す。
エドは黙って聞いていた。

「それでも……一緒にいさせてくれる?」
「当たり前だろ!」

ニカッと笑って答えるエドを見て、コウも笑みを浮かべた。

「行こうぜ」

その言葉と共に差し出される手。

「うん!」

コウは迷わずその手を取った。










「よかったの?無理にでも連れて来たかったんじゃない?」
「うるさいよ」

視線すら寄越さずに答える。
闇夜に溶け込むような漆黒の髪の二人。

「まぁ、好きにしなさい」

ラストは軽く溜め息をつくと、そう言って踵を返した。
後に残されたエンヴィーは空を仰ぐ。

「無理やり連れて行っても…心がそこにないなら意味はない…」

呟く声は空へと消えていった。

「幸せになってよね、コウ…」











「コウ!!無事だったんだね!!」
「アル!」

家から出てきた二人を出迎えたのはアルだった。
笑顔を浮かべてアルに駆け寄る二人。

「ごめんね、心配させて」
「本当だよ。大丈夫?」
「うん。どこも怪我もしてないし。それに……旅の目的も達成できたよ」
「そうなの?どう言う事?」
「後から全部話すって!今は帰ろうぜ?ウィンリィたちが心配してるからな」
「あ、そうだったね。コウ、覚悟してた方がいいよ。ウィンリィが凄く心配してたから…」
「本当?じゃあ謝り倒さないと…」

三人は並んで歩き出す。
エドとコウの繋がれた手は、家に帰るまで解かれる事はなかった。











『ねぇ、ここの資料を持っていかないの?賢者の石に関する物だよ?』
『こんなのなくても、俺たちは自分なりの答えを探すからいいんだ』
『…そっか』
『コウが持って行きたいなら、別に止めないぜ?』
『ううん。いらない。記憶は…新しく作ればいいし』






どれが本物で。
どれが偽物で。

それはまだわからない。

でも、それでいいんだよね。

記憶は……新しく作ればいいから。

そう、私の幸せはあなたの傍に。






The End.
(05.01.22)