Raison d'etre  sc.028

藍染の一件の報告の後、紅は再び一番隊を訪れていた。

「朽木ルキアの事で、お話があります」

紅は総隊長を前にしてそう言った。
その凛とした声は、他に誰もいない部屋の中に響く。

「…朽木ルキアの処刑は決定しておる。覆るとは思ってはおらんな?」
「何故処刑なのですか。彼女の余罪は私が全て問いだしました!彼女も偽りなど述べてはおりません」
「これは機密事項じゃ」
「それで納得できるとお思いですか…」
「納得するもしないも主の自由。結果は変わらん」

紅は拳を握り締めて叫んだ。

「人の命が……そんな簡単に処分されていいものではありません!!
何故………彼女が、ルキアがあれだけの事で処刑にまでなってしまうのか…納得のいく理由をください!」
「人の言う事を聞いておらんのか?お主が納得せずとも事実は変わらん」
「ルキアは!」

紅は真っ直ぐに総隊長を見据えて声を上げる。

「彼女は私の友人です!わかっています…コレが私情だということくらい。それでも……あまりに酷すぎる…っ!」
「零番隊長!」

いつになく鋭い声に、紅が言葉を止める。

「私情とわかっておるならいい加減にせんか。お主にもやるべき事はあるじゃろう。まずは旅禍を始末する事から考えよ」

有無を言わさぬ低い声に、紅は唇を噛んだ。
己の無力さが歯痒い。

「……っお忙しい所に失礼いたしました。持ち場へ戻ります…っ」
「お主の働きには期待しておるぞ、零番隊長」

くるっと踵を返して、紅は一番隊を後にした。



「わかってたわよ……!私なんかが訴えたくらいで覆らないなんて。
そんなこと……百も承知!それでも……………認められるわけないじゃない」

やり場のない怒りを抑えて、紅が呟いた。














同じ頃、四番隊員花太郎の治療のおかげで動けるようになった一護。
彼らは確実に懺罪宮に近づいていた。

「そっか……死ななかったのね、一護」

彼の霊圧を感じて安堵の溜め息を漏らす。
そして、その方向へと走り出した。

「一護……っ。ルキアを助けて……」

自分だけでは助けられない。
それがわかっているからこそ、紅は一護を求めた。

彼ならば、信じられる。
ルキアを助けられると。
だから、託す。
この思いも―――――ルキアも。















「この霊圧は……更木さん…?」

廊下を進む紅がふと顔を上げた。
瀞霊廷の方向で大きな霊圧の衝突を感じる。
と、後方から知った気配が近づいてきた。

「隊長!」
「霧渡…?」
「報告します!旅禍の一人が十一番隊長と接触しました!」
「その旅禍は…」
「…隊長の気にかけていた旅禍で間違いありません」
「………そう。ありがとう」
「では、持ち場へ戻ります」
「あ、霧渡」

去ろうとする霧渡を紅が呼び止めると、彼は彼女に向き直りながら続き言葉を待つ。

「……くれぐれも無茶はしないように」
「了解です」

その答えを聞いて、紅は小さく微笑んだ。
そして去っていく背中を見送って自分も瀞霊廷の方へと足を向ける。















「斬月…?」

一護の持つ斬魄刀の名を聞き、紅が鸚鵡返しのように呟く。
刀を形成する鍔や柄はなく、手で握り締める部分には巻き布が施してあった。

「あれが……一護の斬魄刀…」
『紅』

凛とした声が紅の名を呼ぶ。

「霽月…」
『しっかり見ておけ…。斬月が破れる』
「え……」

その時、更木の斬魄刀が斬月を貫いた。
刀身のほぼ中央で真っ二つに折れる斬月。
そして、斬魄刀は一護の胸へと刺さる。

「――――っ!!」

紅が声にならぬ声を上げる。

『行くな』

走り出そうとした紅の前に、着物を着た女性が姿を見せた。
漆黒の髪を高く結い上げ、丈の短く活動的な着物を身に纏っている。
射抜くような切れ長の眼が、紅を真っ直ぐに見つめた。

「…珍しいわ、あなたが姿を見せるなんて」
『あの者の傍による事は許さない』
「霽月…?」
『あの者は気づかなければならない…自分の力で。斬月にはそれだけの力がある』

霽月はゆったりした足取りで紅の元へと歩み寄る。
流れるような漆黒の髪が、彼女の動きに合わせて柔らかい弧を描いた。

『紅、これは主にも言えることだ。私は問うたはず。紅、主は私を信ずるか、と』
「……ええ。私は…あなたを疑わないと、信じると答えたわ」
『その言葉、私も信じている』
「一護は、まだ足りない?」
『ああ。斬月を理解していない奴には斬月も力を貸さぬ』

霽月はそう言うと倒れる一護の方を向いた。

『これは…一護が気づかなければならん。紅、主が手を貸しては意味がないのだ。わかるな?』

その言葉に、紅は強く頷いた。

『私を信じるなら、この場で留まれるな?』
「ええ」

迷いのない言葉を返す紅。
それに満足した霽月が柔らかい笑みを返した。

『大丈夫だ…あの者は立ち上がることが出来る。主はそれを信じて待ってやれ』

そう言って霽月が姿を消すと、紅は腰の霽月に手を当てた。
もう一護の傍に向かうつもりは微塵もない。

「ありがとう、霽月」

そして、紅は一護が立ち上がるのを信じてその場に留まった。

Rewrite 05.11.15