空色トパーズ
Target  --000

数年前まで俺の家には、もう一人家族がいたんだ。
二つ年上の、赤みがかった黒髪の女の子。
俺が紅姉さん、って呼んでいた、女の子。
皆がツナって呼ぶ中、姉さんは綱吉って呼んでた。
何でって聞いたら、特別だからって笑った紅姉さん。
子供の頃から失敗ばっかりだった俺を一度も馬鹿にしないで、大丈夫だよって笑ってくれた。

―――大好きだった。

そんな姉さんは、俺が6歳の時に、突然消えた。

「やられた…!」

姉さんが消えて、二日後。
夜のリビングで電話を片手に父さんが呻くようにそう言っているのが聞こえた。

「あの子はマフィアとは関わらせるつもりはなかったのに…!…くそっ!!」

幼い俺には、それが何を示す言葉なのかがわからなかった。
ただ、姉さんが遠いところに行ってしまった事だけは…はっきりと、理解していたと思う。
それから間もなく父さんも消えて、母さんと二人になって。
母さんから、紅姉さんは本当の姉さんじゃないことを聞いた。
父さんの親友の娘―――それが、姉さん。
今更知ったところでどうなるものでもないけど…忘れられなかった。












「ん?こいつは…」

リボーンの声が聞こえて、制服に着替える手を止める。
振り向いた先ではリボーンが写真立てを手にとって、見つめていた。
そう、写真立て、を…

「うわ!触るなよ!!」

ボタンを留めようとした手を、慌ててリボーンの方へと伸ばす。
写真立てを奪おうとして、呆気なく腕を捻られ返り討ち。
派手な音を立てて床へとひっくり返され、腰を強打する。

―――朝っぱらから、痛い。

「誰も盗ったりしねーぞ」
「いいから、早く置いてくれよ!大事な写真なんだ!」

腰を擦りながらも必死な俺に、珍しく従ってくれる気になったらしいリボーンが写真立てを返してくれる。
急いで受け取って、机の上に戻す。

「そいつは誰だ?」
「何だよ、知ってたんじゃなかったのか?」
「誰だ?」
「…紅」

有無を言わさぬ問いかけに、少しだけ躊躇いながらもその名を口にする。
声に出すと、どうしようもない懐かしさが込み上げてきた。

「紅、か…」

何か含みのある声だった。

「俺は一度も見たことねーな。何でだ?」
「…8年前に、誘拐された、から」
「誘拐?」

確認するように、質問が投げかけられる。
まるで誘導尋問のようなそれから逃げるように、写真の中の紅を見た。
紅を『紅姉さん』と呼ばなくなって、どれくらい経つんだろう。
尤も、それを本人に向かって口にした事はないけれど。

「たぶん、マフィアだ。父さんがそんな事を言ってた。だから俺は…マフィアなんか、大嫌いだ」

違うかもしれない。
子供の頃の記憶は酷く曖昧で、肝心な事も忘れてしまっている。
けれど、父さんが口にした、父さんには不似合いな『マフィア』と言う単語だけは、忘れなかった。

「そーか。…ところで、ツナ。時間はいいのか?」
「時間…?ああー!!」

リボーンに言われ、見上げた時計は既に家を出る時間を指している。
朝飯も食ってないのに、この時間だ。
これでは、折角早起きできても意味がない。
慌てて部屋を飛び出した俺は、その後リボーンがどうしていたかなんて、知る由もなかった。












「久しぶりだな。元気にしてたか?」
『ええ。お蔭様で。仕事も順調よ』
「そうか。流石、俺の愛人だな」
『…その話は随分前にお断りしたはずだけど?』
「所で、俺に会いたくないか?」
『……まぁ、会いたくない、とは言わないわ。けれどあなた、日本に向かうって言ってなかったかしら』
「あぁ」
『…勝手な人。いいわ、仕事が一段落したら、行ってあげる』
「場所は並盛―――懐かしいだろ」
『―――聞いた、のね』
「あぁ」
『…という事は、あなたが日本に行ったのは、綱吉が理由なのね』
「話が早くて助かるぞ」
『愛人になるから、あの子と関わるのをやめてって頼んだら…聞いてくれる?』
「残念だが、これだけは無理だな。他の事なら、思い切り甘やかしてやる」
『私が望む事はそれだけよ。それに、ビアンキとはいい関係でいたいの』
「平和主義だな」
『無意味な争いは避けるに越した事はないわ。じゃあ、ね』
「あぁ。会えるのを楽しみにしてるぞ―――紅」

09.11.15