Weak point 前編
60万Hit感謝企画
ぽかぽかと日差しのぬくもりを感じる事の出来る昼下がり…。
真っ白なシーツの上にブルーグレーの髪を流し、その瞼を閉じる女性が居た。
長い睫毛、スッと通った鼻梁。
今は瞼の奥に隠れている、海色の眼。
十分に美しいと言える容姿を持った彼女は、安らかな寝息を立てていた。
「敵襲 ―――――!!!」
甲板からの声に、コウは文字通り飛び起きた。
ベッドの脇に立ててあった蒼剣はすでに彼女の手の中にある。
寝起きとは思えない鋭い視線を部屋の中に巡らせ、その後廊下の気配を探る。
「…くそ…っ!!何もこんな日に来なくても…」
不機嫌に眉を寄せ、手早く髪を結い上げると彼女も参戦すべく自室を飛び出した。
慣れた剣はまるで手の一部かのように軽く、吸い付くような感覚をもたらした。
ギィンと刃同士の擦れ合う音が響く。
甲板はすでに戦闘の熱気に包まれていた。
「…コウッ!」
火薬の匂いが鼻先を掠める中、コウは自分を呼んだ声を探す。
見つけるのは簡単だった。
トンッと前の敵の顔面を蹴り、そのまま彼の背中側へと降り立つ。
「ちゃんと起きてたんだな、眠り姫」
「おかげ様で殆ど寝てないわ」
「そーか。眠いとか言って船から落ちんなよ?」
「誰に言ってるの?」
こんな場面だと言うのに悪戯めいたシャンクスの言葉に、コウは口角を持ち上げて笑った。
そして、彼の背を離れて走り出す。
「徹夜明けに来るんじゃないわよ!!」
八つ当たりにも似た声を上げて相手を切り倒していった。
半時間後、すでに赤髪海賊団の船に敵の姿はない。
乗り込んできた者は返り討ち。
自船へと逃げ帰った者を赤髪側が追っていく。
戦場は敵船の甲板へと移っていた。
深追いする事なく赤髪の船に残っていたシャンクスがそれを見つめる。
その中に、素早い動きで相手を伸していくコウを見つけた。
「無理せず戻って来いよー、寝不足娘!」
シャンクスの声に、赤髪側のクルーが笑う。
相手に比べて随分と余裕が見られるのは実力ゆえの事だろう。
「了解、お頭…!」
遅れる事数秒、コウからの返事がシャンクスの耳に届く。
一瞥するように向けられる海色の眼。
しっかりと視線を絡ませ、彼女はふっと笑うとまた背を向けて剣を薙いだ。
本当ならば戦場に立たせたくはない。
思うのだ、今すぐにでも自分の隣に呼び寄せたいと。
それほどまでに愛おしいと思う女性だからこそ、彼女の想いを優先している。
自分が剣を持たさずに守ろうとすれば、彼女は何も言わずに船を降りるだろう。
悩む時間など必要ない程、簡単にわかる。
「そろそろ決着がつくな」
いつの間に隣に来ていたのか、ベンがシャンクスと同じ方を見ながら声をかけた。
彼の言葉に「ああ」と短く答える。
その時、腹に響く重低音と共に、敵船がぐらりと揺れた。
「…コウッ!!」
何人斬ったのだろうか。
それすらもわからないほど、蒼剣は血を吸った。
クルリと身体を翻す遠心力に手伝われ、大した力も要せずに前の男に致命傷を与える。
―― 殺らなければ、殺られる。
海賊船に乗って数年、すでに相手を傷つける事に対しての躊躇いはない。
返り血を浴びないように横へと飛び、甲板の縁に背を預けて弾みつつある息を整える。
「そろそろ…終わるわね」
ここまでくれば大丈夫だろう、そう判断したコウはシャンクスの待つ船へと戻ろうと考えた。
そして、船の縁に足を掛けた。
―― ドォンッ ――
船底からの重低音に船が揺れる。
「―――― っ!」
踏み切りを失った足は空を掻く。
「…コウッ!!」
シャンクスの声が、やけに遠く感じた。
ザバンッと海が水しぶきを上げた。
「自分の船を爆破したな。……お頭?」
タバコの紫煙を吐き出しながら口を開く。
言い終わってからシャンクスの様子がおかしい事に気づいた。
彼は海面を凝視するようにして動かない。
「…後は任せたぜ!」
そう言うと同時に、彼は甲板を蹴って海へと飛び込む。
「お頭!?」
慌てた様子で声を上げるクルー。
その傍でベンは敵船の上に視線を巡らせる。
そして、気づいた。
「おい!二人を引き上げる準備しろ!」
「引き上げる?」
「二人?」
「ああ。コウが落ちた。早くしろ!」
ベンの言葉に、クルーが我先にと動き出す。
それにしても…と彼はシャンクスの飛び込んだ辺りに視線を落す。
「コウが落ちたのは初めてか…」
自ら飛び込んだ事はあっても落ちたのはこれが初めてだ。
能力者だと言う事はわかっているが、やはり海には弱いのだろうか。
そんな事を考えながら、爆発によって沈みつつある敵船に目を向け、紫煙を吐き出した。
05.08.27