もしもシリーズ
『登場キャラが学生だったら?』
「………………………………」
書類を前に沈黙を通す白哉。
話しかけにくい雰囲気を醸し出している彼に声をかける様な勇気ある人物はこの場にはいなかった。
ただ、ひたすら沈黙を保って彼からの言葉を待つ。
そして、その口がゆっくりと開かれた……
「この「遅くなりましたっ!!」」
のだが、勢いよく扉を開く音と飛び込んできた声に、その声はいとも簡単に掻き消される。
すでに慣れた事と、白哉は溜め息をついて開かれた扉から入ってくる人物を見やる。
居心地悪い沈黙を破ってくれた、と言う面では部屋の中に集まっていた役員達からすれば救世主であろう。
「…扉は静かに開け」
「あ、すみません」
「それから…まだ時間ではない」
「!本当ですね。てっきり遅刻だと思いました」
ちなみに一緒に来た日番谷だが…紅の勢いに乗じて部屋へと入り、すでに自分の席に落ち着いている。
その時、丁度時計の針が4時半を指した。
「……市丸はどうした?」
「えっと……………逃げました」
視線を逸らして苦笑を浮かべる紅。
「…市丸は無断欠席、吉良も欠席だな」
彼らの名前の所にそれぞれ印を付けると、静かに白哉が話を始める。
何とも個性的な面々が揃った生徒会で…。
空席も目立つ事ながら、その姿勢が面白い。
まず、真面目に聞いている者などほんの一握りである。
ある者は他の事に神経を費やし、ある者は睡眠を貪っている。
協調性のカケラも見当たらない生徒会が成り立っている事自体が不思議だった。
「―――以上です。各役員それに対する意見を集めて来週中に会長若しくは副会長に届けてください」
途中で引き継いだ紅が話を締めくくると、書類を持ち上げてそれぞれが退出し始めた。
今日提出の分を受け取り、紅は白哉の右手に一席空けて腰を降ろす。
早々に書類の確認を始めようとしたのだが…横から伸びてきた手にその大部分を奪われてしまう。
慌ててその腕を追えば、先ほどチェックしていた書類と共にそれを纏める白哉の姿があった。
「白哉さん?それ、私が確認しますけど…」
「市丸に残しておく」
そう答えると、白哉は書類を封筒に入れて隣の部屋へ持って行ってしまった。
紅の手元に残ったのは僅かな量の未確認書類のみ。
小さな優しさに笑みを浮かべてそれに向かうと、不意に机に影が落ちる。
「…冬獅郎?」
「やっぱ大事にされてんな、お前」
肩を竦めながら話す日番谷に、紅は苦笑いを浮かべて見せた。
「根が優しいんだよ、白哉さんは」
「そうか?それに…紅は絶対に先輩って呼ばねぇよな」
「ルキアのお兄さんだからね。小さい時からお世話になってたし…名前においては前に話した通り」
修正箇所にシャーペンで薄く印を付けながら紅は答える。
ルキアとの付き合いは小学校からのもので…必然的に白哉との付き合いも同じだけの長さとなった。
さすがに入学当初は何度か呼び名を直そうと努力したのだが…。
度々間違える紅に、白哉から直々に「今まで通りに呼べ」と言われてしまった。
その経緯を知っている日番谷は彼女の答えに笑みを深める。
「終わりっと。冬獅郎の分は?」
「おう、これだ」
持っていた紙切れを紅の前に置くと、自分の荷物の置いてある机まで戻っていく。
その背中を見ていた紅だったが…ふと手元に視線を落として先ほどと同じ作業を繰り返した。
最後の一枚の確認を終えると、紅は軽く伸びをする。
「んー…確認終了」
「お疲れ」
「うん。でも今日は殆ど無いみたいな量だったから。これを白哉さんに提出すれば終わり」
すでに帰る支度の整っている日番谷がそう声をかけた。
それに笑みを返すと、紅は作業を終えたそれを持って立ち上がる。
自分のペンケースにシャーペンやらその他諸々を片付けると、鞄の中にそれを詰め込む。
「ちょっと持って行ってくるね」
「おぅ」
先ほどまで自分が座っていた正面の机にもたれるようにして本を開いている日番谷にそう言葉を残す。
そして、自分は隣の部屋への扉を叩いた。
中からの返事を受けてその部屋へと所在を移す。
「白哉さん、今日の分の確認終わりました。会長印をお願いします」
「わかった。そこに置いておけ。今日はもう帰っていい」
「ありがとうございます」
示された場所にそれを置くと、紅はペコリと頭を下げてその部屋を出て行く。
「身体を壊さない程度にしてくださいね」
そう言い残して扉を閉める。
「終わったか?」
「うん。もう帰っていいって」
「さっさと帰る支度しろよ」
「はーい」
そう返事を返すと、自分も帰る支度に取り掛かる。
その間、日番谷は口を挟む事なく本に視線を落としていた。
「お待たせ」
程なくして掛かった声に、持っていた本を閉じて鞄の中に仕舞う。
漸く視線を上げれば、前にはすでに帰り支度万全な紅が立っていた。
「んじゃ、帰るか」
「だね」
生徒会室の戸締まりを確認して、その鍵を職員室まで届ける。
その後、二人はすでに日が沈みかけている帰路へと付いた。
角度の付いた夕日が二人の影を長く伸ばして、その存在を知らしめる時間帯。
近寄り過ぎず、遠ざかり過ぎず。
他愛無い会話をしながら程よい距離を保って歩く二人。
生徒会で帰りが遅くなった時にはよく見られる光景だった。
「いつも言ってるけど…先に帰ってくれてもいいからね?」
「だから…俺は自分のしたいようにしてるだけだ」
「…でもいつも送ってもらうのって気が引けると言うか何と言うか…」
少しだけ困ったような表情を見せる紅。
だが、こうして一緒に帰ってもらえるのが嬉しくないわけではない。
この時間帯に一人で帰路に着くと言うのは中々孤独感を感じるものがあるからだ。
「気にすんなって。お前の家は丁度通り道だからな」
「…ありがとう」
にっこりと微笑んでお礼を言う紅。
その答えに満足して、日番谷は頷いた。
ここで女の子の荷物などを持ってやれば株の急上昇に繋がるのだろうが…。
それはあくまで世間一般の事。
紅にそれをしようものなら、その後三日は口も聞かないだろう。
そう言う風に護る様に扱われるのは嫌いなのだから。
普通ではないのかもしれないが、それが彼女である。
一女子高生だが、自分の意思をしっかりと持っている。
そんな彼女だからこそ、こうして周りからの信頼を得ているのだ。
信頼だけでなく、その愛情も。
誰か一人を贔屓目に見る事をしない彼女だが…。
その眼がたった一人を映す様になった時。
激しい争奪戦が繰り広げられるであろう事は想像するに容易かった。
今日は沈み、また明日が昇ってくる。
05.03.07