Ice doll   --- sc.067

穏やかな表情なのに、無視できない本能と言う名の危険信号。
背筋がざわりと粟立つ感覚を受けて、より一層顕著に現れる緋の眼。
男はコウの様子に無言のまま弓なりに目を細めた。

「そう怖がる事はないよ。君に何かをするつもりはない」

今は、ね。
呟く声が恐ろしい。
けれどそれ以上に、男の眼の奥に揺らぐ狂気が恐ろしいと思った。

「君と、そしてあと一人…」

囁くような音量で呟かれた言葉。
その意味を理解するよりも先に、意識する事無く男の視線の先を追う。
壁の一角―――そこに張り付けられた、無数の写真。
その多くが自分を写したものであると気付く。
しかし、そんな事よりも―――

「どう、して…」

どうして、“彼”の写真がここにあるの。
コウの視線に気付いたのか、彼は愉しげに笑った。

「あと、二人」
「な、にを…」

コツリと靴を慣らし、壁へと近付いた彼が写真に指先を滑らせる。

「クルタの氷宝を知る者を、消してしまおうと思ってね。それで終わりだ」

コウが再会した時よりも少し幼いクラピカの横顔が、男の指先の奥に隠れた。

















「―――見つけた」

足音なく移動する集団の先頭、クロロが静かに呟いた。

「コウか?」
「ああ」
「やっとかよ…で、どこなんだ?」

フィンクスにそう問われ、クロロは沈黙する。
眉間に深々と刻まれた皺と、少しだけ纏うオーラが闇を深めた。

「…急ぐぞ」
「コウに何かあった?」
「オーラが揺らいでいる。何かあったと言うよりは―――」

その続きを濁したクロロは、宣言通りに先を急ぐべく、速度を上げた。















あと、二人。
その言葉の真意はどこにあるのか。
否応なしに浮かぶ最悪の結論を前に、コウが出来ることは少ない。

「私の宝物を見せてあげようか」
「宝、物…」
「そう、宝物。私だけの、可愛い“人形”」

瞬時に強張るコウの表情。
それだけで、彼女が自分の言葉の意味を悟ったことを理解する。

「…やっぱり、ここに…」
「いるよ、ここに」

こつん、と指先が机をノックした。
壁だと思っていたそこに現れる、大きすぎるほどのモニター。
贅を尽くしたといっても過言ではないそれは、すぐに己が役目を果たす。
映し出されたのはコウ―――ではない。

「この、人が…」

カメラの存在に気付いているのか、いないのか。
壁一面の大きな窓辺に置かれた椅子に腰かけ、外へと視線を向けている。
薄く開かれた窓から入り込んだ風が“彼女”の金色の髪を揺らした。

「そうだ。彼女が…君の片割れ。美しき私の“ドール”」

まるで、何かに呼ばれたかのように彼女がゆっくりとこちらを向いた。
自分が、そこにいる。
決して悪くない画質のモニターだが、そこに映る彼女は自分と瓜二つであり、違いを見つけるのは難しい。

「緋の眼などなくとも美しい」

うっとりとモニターを見つめるその姿にゾクリと背筋が逆立った。
これを愛情と表現してもよいのだろうか。
そんな感情よりも、もっと暗くて重い―――狂気に似た炎がその目に見え隠れしている。

「さて―――私の宝物を見せたことだし、もののついでに面白い話を聞かせてあげようか」

そうだなぁ、なんて思案するように視線を天井へと投げる。
にこりと笑うその顔に、悪い予感しかしなかった。

「クルタ族の滅亡について―――なんて、どうかな?君にとっては実に興味深いと思うよ」

16.08.27