Tone of time
Wand of Fortune another story
Side.コウ
エストの髪からビーズを外し、少し癖の付いた髪をさらりと梳く。
「少し髪が伸びてきたわね。今度切ってあげましょうか?」
「…言われてみれば」
思い出したように自分の前髪の長さを知るエストに、コウは苦笑を浮かべた。
「あなたは昔から自分のことに無頓着すぎて困るわ。次の休日でどう?」
「…わかりました。空けます」
少しの間を置いて答えるエストに、おや、と思う。
空ける、と言うことは、何か予定が入っていたと言うことだろうか。
「何か用事でも入っていたの?」
「裏山に薬草を取りに行こうかと。でも、前日でも構いませんし」
「裏山?じゃあ、ついでにお願いしてもいい?」
「ええ、構いませんよ。いつものですか?」
いつもの、と言うのは、コウが個人的に研究している魔法薬の材料だ。
裏山には自生しているが、市場で買えばそれなりに値の張る薬草。
何かの役に立つだろうかと一緒に持ち帰ったそれが、コウを喜ばせたのはもう随分と前のことだ。
以来、エストは自分の用事のついでに、彼女が必要とする薬草も持ち帰るようになった。
さぁ、終わり、と仕上げるようにエストの頭を撫でたコウは、先ほどから視線を感じていた方を見る。
じっと見つめるその視線に、穴が開きそうだと苦笑を浮かべた。
「さて、と…そろそろ行くわ。あなたの彼女が心配そうだから」
「…彼女じゃありません」
嫌そうなその表情の中に、今まで見たことのない表情を感じた。
おや、と思う。
もしかすると、もしかするのかもしれない。
「ふふ…あの子、可愛いわね。私とあなたの関係を心配しているわ。アルバロに尋ねちゃって」
「どうして彼に聞く事自体が間違っていると気付かないのか…」
「あら、それは私にも言っているの?」
「好きに取ってくれて構いませんが…間違っていたって、あなた達は聞かないでしょう。
それに、あなたはアルバロに飲まれるような性格じゃないと知っていますから」
「信頼されているのね、私」
そう言うと、何を今さら、と言う表情を返される。
「…当たり前でしょう」
「ありがとう。…じゃあ、行くわね。おやすみなさい、エスト」
「…おやすみなさい」
エストが素直に元の場所に戻るとは思えないから、コウだけが二人の元へと歩き出す。
その背に彼からの視線を感じたけれど、振り向いたりはしなかった。
立ち去るエストを追うルルを見送り、クスクスと笑う。
「可愛い子だわ」
「そう。楽しそうで何よりだね」
「あなたも楽しそうね、アルバロ。あの子が私に妬く姿が可愛かった?」
「うん、面白かったよ。冷静に見ればすぐにわかる事に気付かず、心配ばかりの彼女があまりにも―――」
あえて言葉にしなかった部分に、彼の本音が垣間見える。
「悪い顔になってるわ」
そう教えると、即座に「そうかな?」といつもの仮面が復活した。
「本当に悪趣味だわ」
「些細な事にもスパイスを求める性質なんだ。それに…家名を名乗らない君も君だと思うよ」
「ま、否定はしないけれど」
結局は、どっちもどっちと言うこと。
似た者同士なのだから、仕方ない。
Side.エスト
「エスト待ってったら!!聞こえてないの?」
「その大声が聞こえないはずがないでしょう。静かにしてください」
「もう!コウさんにはあんなに素直だったのに…」
「素直…?」
「うん!」
「…それで、何故あなたはそんな不機嫌な顔をしているんです?」
「私には意地悪ばっかりだけど、さっきのエストはすっごく素直だった!!」
「あなたには関係ないでしょう」
「関係なくない!だって…何か、嫌だったんだもん…。別人みたいに、穏やかだった」
「…そうかもしれませんね。彼女は僕の唯一の理解者ですから」
「………唯一…」
「ええ。僕が生まれた時から、ずっと変わりません」
「生まれた、時から…」
「…そうです。………こんな話、あなたにするべき話ではありませんでしたね。忘れてください」
「そんな事ない!私は聞きたい!!」
「聞きたいなら、彼女本人に聞けばいいでしょう。姉さんは僕のようにあなたに意地悪な人ではありませんから」
「う…!意外と根に持ってるのね…」
「いいえ?僕にはあなたの評価なんてどうでもいい事ですから」
「それも酷い―――って、え?」
「…何です、その間抜けな表情は」
「エスト…今、姉さん、って?」
「ええ、言いましたが…それが何か?」
「コウさんってエストのお姉さんなの!?聞いてない!!」
「わざわざ教える必要性を感じません。第一、見ていて気付かないんですか」
「うう…。だからアルバロは“必要ない”って言ったのね…!教えてくれればいいのに…」
「聞く相手を考えないからです。では、僕はもう部屋に戻ります」
「あ、待って!」
「…まだ何かあるんですか?」
「今度の週末なんだけど…」
「駄目です」
「まだ何も言ってない!」
「既に予定が詰まっています」
「そうなの…?」
「…………………」
「…………………」
「…………………っ姉さんと約束があります。けれど、午前中だけで十分でしょうから…その、昼食後、なら」
「…会える?」
「…はい。だからそんな目で見ないでください」
13.02.12