Topaz 親友恋愛物語 06
校門の所に立っている人物を見るなり、悠希はピタリと足を止めた。
それも仕方のないことだろうと思いながら、紅は彼女の背を軽く押す。
躊躇うように振り向く悠希に、彼女は後押しするように微笑んだ。
「行ってらっしゃい」
少しだけ赤くなった目を隠すように、悠希は歩いていった。
その背中を笑顔で見送る紅。
やがて彼女の姿が消えると、紅はふと笑みを止めた。
「大丈夫かな…」
声同様に心配そうな表情を見せる。
しかし、思い出したように彼女は頭を振った。
「頑張れ」
届くはずのない声だけれど、きっと届いてる。
「おめでとうさん」
パチパチと乾いた拍手を送り、忍足がそう言った。
彼の隣には嬉しそうに笑みを浮かべる紅がいて、二人の向かいには何とも初々しいカップルが居る。
ふと目線があってもすぐに逸らしてしまうような…そんな二人。
紅と忍足は顔を見合わせて笑った。
「しっかし…佐倉と宍戸なぁ…。頑張りや、宍戸」
「?」
何やら感慨深く頷きながらの言葉に、宍戸は首を傾げる。
彼に説明するように、忍足はニヤリと口角を持ち上げた。
「佐倉の兄が誰か…忘れたわけちゃうよな?」
例えるなら漫画のキャラが衝撃を受けた時のような反応。
目に見えて顔を引きつらせた宍戸を前に、彼は楽しげに笑う。
「跡部の反応がごっつ面白そうやなぁ。楽しみやわ」
「…侑士…性格悪いね…」
苦笑と呼ぶが相応しいそれを浮かべ、紅が呟いた。
彼女の声を拾い上げた悠希がそれに便乗するように苦笑する。
口は悪いし、会えば喧嘩腰なのだが…内心は妹思いの彼なのだ。
そんな悠希に彼氏が出来、尚且つそれがテニス部の部員とあれば…宍戸への風当たりが悪くなるのは必至だろう。
「それに結婚したら跡部がお義兄さんか…めっちゃ微妙やな」
「…お前だって雪耶と結婚すれば手塚が親戚だろうが!」
ちなみに彼に紅の親戚だと教えた情報網は言わずもがな悠希だ。
必死の言い返しだったのだが、忍足は応えた様子もなくにこりと笑う。
「親戚くらいなら別に構わへんよ?“お義兄さん”って呼ぶわけちゃうし」
「~~~~~っ」
さすがに付き合いだして一年以上経っている忍足とは余裕が違う。
明らかに遊ばれている宍戸を見ていた紅と悠希の視線がかち合った。
「ねぇ、悠希」
「うん。多分同じ事考えてるね」
顔を見合わせて笑い、二人はそっと席を立つ。
宍戸で遊んでいる忍足はそれに気づかないし、遊ばれている宍戸も然り。
紅と悠希は賑わう喫茶店を抜け出した。
「あはは!いつになったら気づくと思う?」
「さぁ?侑士が攻撃を休めれば気づくんじゃない?」
日暮れの帰り道へと足を乗せながら二人は笑う。
のんびり歩いていた二人。
不意に、悠希が照れたように頬を掻きながら口を開いた。
「…ありがとうね。心から怒ってくれる親友を持てた事、誇りに思うよ」
「…引っ叩いたのに…まだ親友って言ってくれてありがとう」
本当に自分の事を思い、その行動を怒ってくれる人。
相手に痛みを与えて尚、己を親友と呼んでくれる人。
長い人生の中で、そんな人に出逢えた事は奇跡だと思う。
お互いに足を止め、真剣な目を向けあう。
そして、次の瞬間には声を上げて笑った。
「あの時は頭に血が上ってたからさー…きっと、殴られなきゃ治まらなかったと思うよ」
「そう?」
「紅にも酷い事言ったし」
「んー…忘れたわ。ところで…よかったの?折角の彼を放ってきて」
悪戯めいた笑みでそう問いかければ、悠希は面白い程に頬を赤らめて顔を逸らす。
そんな彼女の反応が楽しくて、紅はまた笑った。
「今日は彼よりも親友と一緒に居たい気分なんです!」
「あらら…。恋より友情を取っちゃったよ」
「紅だって忍足を置いてきたんだから同罪でしょ。今日はとことん付き合ってもらうんだからね」
頬を膨らませて悠希は紅の手を取る。
そのままの勢いで駆け出す彼女に引かれ、紅は僅かに体勢を崩しながらも足を動かした。
「今日は紅の家に泊まらせてよ。何だか夜通し話したい気分!」
「奇遇ね。私も今そう思ってた!」
あなたに親友と呼べる人はいますか?
―― 私達の答えはYes。
恋と友情、あなたならどっち?
―― 恋もいいけど…今はやっぱりまだ友情を育みたい。唯一無二の親友と。
05.10.27