Topaz 親友恋愛物語 01
「佐倉の様子がおかしい?」
とある喫茶店。
カランと氷が音を立て、グラスの水滴がテーブルクロスまで流れ落ちた。
青学3年、雪耶 紅。
ただ今彼氏に人生相談中です。
――― まぁ、人生って言うのはちょっと大げさかもしれないけれど。
「あんなに仲ええのに話してくれへんって?」
「そーなのよね…」
ストローの先をアイスコーヒーの中に沈めながら紅は呟く。
組んだ腕の上に顎を乗せてぼんやりとした彼女に、忍足はやれやれと髪を掻き揚げた。
「原因に思い当たる事はないん?」
「思い当たる事………」
「ほら、いつからおかしいとか…何かの話以来とか…。何かないん?」
「…おかしいかなと思ったのが一週間くらい前で………………あ」
紅が間の抜けた声を発する。
店の中は混み合っているわけでもなく、かといって閑古鳥が鳴いているほどでもない。
落ち着いて話を出来る状態にあった。
「一週間前っちゅーたら氷帝に遊びに来たくらいやな」
「それ…かな?多分」
紅自身もはっきりと断言は出来ないらしい。
そんな彼女の返事に忍足は苦笑を浮かべる。
「氷帝でのこと話してて、何か悠希が黙り込んで…。
それからかな?時々上の空で窓の風景を眺めるようになったの」
「………ちょお待って?俺らが原因?佐倉を怒らせるようなことしてへんと思うんやけど?」
「あ、ごめん。別にそう言うつもりで言ったんじゃないよ。怒ってるわけじゃないみたいだし」
思い出すように考え込んでしまった彼を見て、紅は慌ててそう答える。
それに安心したように、忍足は自分の頼んだアイスコーヒーを一口喉に通した。
「まぁ、その内佐倉の方から話してくるんちゃうか?親友なんやろ?」
「…うん」
「もうちょっと待っといたりや」
そう言って彼は紅の頭を撫でる。
忍足の言葉に、彼女は静かに頷いた。
「あ。それで侑士まで悩んでるんだ?」
部活の休憩時間に、忍足はこの間の一件をパートナーである向日に話した。
口が軽そうに思える向日だが、こう言う事に関しての常識は持っている。
他言しないとわかっているからこそ、忍足はそのことを口にした。
「佐倉が何かあると紅まで気落ちしてしもてな…」
そう言って彼は苦笑を浮かべる。
パートナーは愛しの彼女の元気がないと、自分まで元気がなくなる。
向日はそんな彼を前に肩を竦めた。
「あいつらがそんな事になるなんて想像出来ないよなー」
「まぁ、仲ええからな」
「そうそう。仲がいいって言うより……双子?みたいだよな、二人とも」
どっかの誰かよりもずっと!と向日はテニス部部長を盗み見ながら言った。
同意するように忍足も頷く。
「別に侑士まで心配するほどの事じゃないと思うけど?あいつらなら明日にでも元に戻ってそうだし」
彼が軽い調子で言うなり、休憩終了の笛が鳴る。
重い腰を上げて二人はコートへと歩き出した。
「紅の事気にしすぎてヘマすんなよ、侑士!!」
「わかっとるって。ちゃんとフォローするから安心して跳んでや」
二人の調子が早く戻ればいいと思いながら、忍足はラケットを握った。
「…悠希」
「んー?」
「…聞いてる?」
「聞いてるよー」
間延びした返事に、紅は深々と溜め息をついた。
この溜め息すらも彼女には届いていないかもしれない。
条件反射と言う奴で返事を返されて嬉しい人間が何処にいるだろうか。
「今日、誘われてるんだけど」
「何処に?」
漸く悠希の目に紅が映った。
それを確認して、紅は続ける。
「氷帝。気晴らしになるかもしれないからって侑士が…。
……行かない?」
「行く」
「…………………即答?」
問いかけが終わるなり返ってきた答えに紅は驚く。
別にいいから行って来なよと言って断られる事を覚悟していた。
それだけに、紅は暫く思考を停止させる。
「……やっぱり氷帝が関係してるの…?」
「紅?何ぶつぶつ言ってんの?」
いくらか調子を取り戻した悠希が紅の視界で手を振る。
思わずその手を掴んで、紅は真剣な表情で悠希を見た。
「私、相談にも乗れないような友達だったの?」
「え?」
「親友だと思ってたんだけど…一方通行だったんだって思うとやりきれない…」
最後の方は殆ど聞こえないくらいの声だった。
俯いてしまった紅を見て、悠希はここ最近の自分を思い出す。
そして、静かに息を吐き出した。
「…ごめん。そこまで紅が気にしてるとは思わなくて………紅の性格なら気にして当然か」
半分自己完結のようにそう言うと、悠希は紅の額を指で弾く。
「私も親友だと思ってるよ?」
「………なら、今回の奇怪行動を詳しく説明して欲しいわね」
額をさすりながら紅はそう言った。
どこか拗ねたような表情を見せているのは恐らく意図しての事だろう。
紅の言葉に、悠希は不自然に視線を巡らせる。
「いやー…あー………うん」
「……………」
「あの…ね。んー…何て言えばいいのかわからないんだけど…」
「あー」だの「うー」だのと言う悠希の頬に朱が広がる。
それを見て、紅は呆気に取られたように口を開いた。
「……悠希…季節はずれの春でも来たの?」
「悪かったわね、季節はずれで」
「いや、そっちは冗談だけど…。じゃなくて!……ホント?」
「…ホント。好きな人が…出来た…の……かな?」
青学3年、佐倉 悠希。
初恋以来の恋の訪れを意識した瞬間でした。
05.08.31