Topaz  03 後編

「…あ、紅。戻ってたの?」
「うん。十分くらい前にね」

跡部と喋っていた悠希が紅に気づいた。
一方的に会話を切られた跡部が引きつった表情を見せる。
だが、それも一瞬の事ですぐに紅へと向き直る。

「紅」
「ん?」

跡部が紅を呼んだ。
調子を確かめるようにボールを遊ばせていた彼女は、呼ばれるままに振り向く。

「そろそろ返事を「跡部ー。人の彼女口説かんといて」」

彼の言葉を遮るように、忍足が声を上げた。
跡部の傍に居た悠希もいつの間にか紅の隣に立っている。

「邪魔すんな、忍足」
「それはこっちのセリフやで?」
「って言うか、紅を景吾なんかにあげないわよ」

苦笑する本人の腕を抱く悠希。
されるがままに、紅は成り行きを見守っていた。

「お前も相変わらずだな、悠希」
「不本意ながらも俺様な兄貴を持ってますから」

悠希は舌でも出しそうな言い方で答える。

「素敵なお兄様だろうが」
「……いつも持参の鏡で自分の顔見れば?」
「そう言うお前は鏡の一つでも持ったらどうだ?」
「お生憎様。鏡くらいは持ってるわよ。景吾兄ほど使わないけどね」

いつまでも続きそうな兄妹のやり取りに、一同は深い溜め息を落とした。
解放されていた紅が鳳の傍まで歩く。

「…始める?」
「…待ってても終わりそうにないですしね」

そうして、二人はテニスコート内へと入っていった。
一同の視線は悠希と跡部から、紅と鳳の練習試合へと移る。
跡部たちが二人の試合に気づいたのは、それから15分も後の事だった。














午後に入り、紅と悠希は何故かマネージャーのような仕事をしていた。

「いや、これは立派にマネージャー業よね?」

紅はドリンクを運びながら呟く。
洗濯籠を抱えながら隣を歩く悠希も頷いた。

「ま、景吾の命令だし。偵察って言っても、見てるだけじゃ暇だしね」
「確かに。氷帝ってマネージャーいないのね…」
「…青学と同じで、あいつら目当ての女しか来ないんじゃないの?」
「その通りですよ」

二人以外の声が聞こえた。
驚くこともなく、彼女達は作業を進めながらその人物の方を向く。

「日吉、どうしたの?あ、ドリンクならもうすぐだけど…」
「手伝いに来たんですよ。重いでしょう?」
「え、あぁ…ありがとう」
「部長命令です」

そう言って紅からドリンクの3分の2を受け取る。
悠希の籠も受け取ろうとしたが、彼女がそれを拒んだ。

「乾いてる分だから重くないわよ。ありがとう」

そうして三人で歩き出すと、不意に悠希が先程の話題を持ち出した。

「やっぱり男目当ての女しか来ないの?」
「…そうですね。仕事をせずに騒ぐだけの人ばっかりですよ。さすがに部長が切れて辞めさせましたけど」
「じゃあ、普段の練習はどうしてるの?結構片付いてると思うけど…」
「平部員が交代でしてます」
「……大変ねー…。ま、青学も私達が入るまではそうだったらしいけど」

悠希の言葉に紅が頷いた。
やはり人気のあるテニス部のマネージャーと言えば競争率は高い。
ゆえに、青学ではマネージャーを募集しなくなっていた。
ある日突然、紅達のようにスカウトされるのだ。
もっとも今までにスカウトされた生徒は紅達だけなのだが。







部室に洗濯物を置くと、紅の持っていた分を二人で分け合って運ぶ。
日吉は先にテニスコートに向かってもらった。

「さて、偵察を許してくれたお礼にしっかりと働きますか!」
「紅らしい考え方ね。でも、賛成」

テニスコートが見え、練習しているレギュラーが見えた。
二人は顔を見合わせて頷くと、駆け出す。

「丁度二時間経ったから休憩!!」
「ドリンクの追加あるからねー!」

氷帝テニスコートに、珍しく黄色い声援ではない女子の声が響いた。


彼女達の休日は自らの為にあらず。
しかし、彼女達はそれを大いに楽しんでいた。












数日後―――

「佐倉…これは何だい?」
「紅とレギュラーたちの試合結果ですけど?」

放課後の練習中、悠希はテニスコートの傍らでスミレに呼び止められていた。
彼女が指しているのは例の『極秘!他校の弱点☆』である。

「…お前達は何をしに行ったんだい…まったく…」
「ちなみにダブルスもやったんですよ!さすがに私が足を引っ張っちゃって負けましたけど」

楽しそうに話す悠希に、スミレは軽い頭痛を覚えた。
順応性があると言えば聞こえはいい。
だが、彼女達はその言葉で言いくるめてしまうにはあまりにもフレンドリーすぎである。
他校に偵察に行かせれば、その学校の裏事情まで聞きだしてくるのだから相当だ。

「まぁ、いい。この辺りの話を詳しく聞きたいんだけどね」
「あ、それなら紅の方がしっかり教えてくれると思いますよ。紅―――っ!!」

悠希がコートの中で部員と練習する紅を呼んだ。
彼女の声に、紅はトスしたボールを手に落す。
手招きする悠希に頷くと、彼女は部員に一声かけてコートを出てきた。

「何?」
「先生があいつ等の癖の話を聞きたいってさ」
「了解。あっちの球出しお願いしてもいい?」
「ん。よろしくね」

コート内に入っていく悠希を見送ると、紅はスミレに向き直った。

「はい。私にわかることならお答えします」
「そうかい。じゃあ、さっそくだが…」


今日も今日とて、二人はマネージャーとして働くのであった。




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05.06.02