Topaz 02 後編
「よし!紅よくやった!!」
「うわっ!!」
ガッツポーズ付きで紅に飛びつく悠希。
試合の後に行き成り飛びつかれたとあってはさすがの紅とて辛い。
二人して倒れこみそうになった所を、後ろに居た河村が慌てて支えた。
「だ、大丈夫?」
「うー…タカさんありがと…」
「さっすが親友!帰りにパフェ奢って貰えるよ~!!」
「は?って、とりあえず離れてくれないとタカさんに迷惑が…」
「あ、ごめんごめん」
紅の言葉で彼女から離れると、悠希は河村にも謝った。
悠希から解放された紅は、ベンチに置いてあった洗濯済みのタオルを自分の分と不二の分持ち上げる。
それをこっちに歩いてきた不二に渡すと漸く悠希の方を向いた。
「んで、どう言う事か説明して欲しいんだけど?」
「僕との約束だよ。賭け…って言った方が正しいかな?」
悠希に説明を頼んだはずだったが、それよりも先に不二が答える。
「そうそう。不二が勝ったら紅と手塚の秘密を話す。んで、紅が勝ったら喫茶店パフェ奢り。もち私達二人分」
Vサインを突き出して満足げに答える悠希に、紅は試合中の疲れが一気に押し寄せてきたような錯覚を覚えた。
何にせよ、親友の機嫌を損ねないためにはこれ以上何も言わない方がいい。
長い付き合いから紅自身よくわかっていた。
「じゃあ、帰りにね」
「ごめんね、不二…何か悠希が勝手に決めてたのね」
苦笑交じりにそう言う紅。
「いや。僕も面白い試合をさせてもらったから」
「って事で。紅の秘密はまたの機会って事になります!」
悠希がコート内に届くように言った。
不二ならば大丈夫だろうと安心していた部員達から不満の声が上がる。
「約束は約束!男なら納得しなさいってば!ま、紅に勝つ自信のある奴は試合を申し出ればいいけど?」
悠希の言葉に部員達は静かに口を噤んだ。
「いい加減に部活を真面目にやれ…」
「あはは…ごめんなさい」
すでに手塚も悠希に口答えする事を諦めていた。
ふと、桃城が思いついたように「あ!」声を上げた。
集まっていたレギュラーの視線が彼に集まる。
「…桃?」
同じく視線を向けていた紅が代表して桃城に声をかける。
「いや~…不二先輩、雪耶先輩達に奢るんっスよね?」
「うん。そう言うことみたいだね」
「何か…軽いデートみたいだなー…と……思ってみたり…」
語尾がどんどん小さくなっているのは気のせいではないだろう。
明らかにマネージャー二人以外のテンションが下がった。
紅は桃城の言葉に苦笑を浮かべ、悠希は楽しげに口の端を持ち上げている。
一人サラッとしている不二だが、生憎その真意は読み取れない。
―――言うまでもなく、3人のデート(?)はレギュラー全員によって阻止されることとなった。
男一人に女二人……果たしてデートと呼べるのかは微妙な所であったが。
「国光まで付いて来るとは思わなかったわ」
前に座る人物を見ながら紅が意外そうな声を上げる。
ちなみに彼女の隣は当然の如く悠希が独占し、悠希の前にはニコニコと微笑む不二。
四人掛けのテーブルの為に結果としてこういう座り方になったと言うわけだ。
悠希、紅そして不二が同じ席に着くと言うのはまぁ当然の事のように決定した。
そこで争奪戦となったのがもう一つの空席。
「あのまま放っておけば面白かったのにー…」
不満げに頬を膨らませてストローを銜える悠希に苦笑いを返す紅。
とても広いとは言えない喫茶店で騒ぐのはよくないと考えた紅が、逸早く手塚の腕を引いて座らせたのだった。
何か思いいれがあったわけではなく――
「国光だったら静かにしてくれそうだし。皆も逆らえないから」
と言う理由から瞬時に彼を導き出したようだ。
さすが、頭の回転の良さを無駄には使わない紅だった。
「おいしー」
「ご機嫌ね、悠希…」
隣で嬉しそうに声を上げる悠希に紅がそう言った。
ちなみに悠希はかなりの甘党。
対して未成年としては不適切かもしれないが、どちらかと言うと辛党だった。
でも甘いモノが食べられないわけではないし、作れないわけでもない。
「何でこんな美味しい物を食べないかね、君は」
「…パフェって甘すぎじゃない?」
「パフェなんて甘くて何ぼじゃない。辛いパフェがあるなら見せて欲しいもんだわ」
「まぁ、そうなんだけどね…」
彼女らしい答えに笑いながら、紅はストローからアイスコーヒーを喉に通す。
時間が時間なだけに店内はほぼ貸しきり状態なわけだが…
「手塚が切れるのも時間の問題ね」
順調にパフェを片付けながら悠希が目を細める。
彼女の目線の先には何やら騒いでいる桃城と菊丸の姿。
やはり騒ぐと言えば彼らが中心のようだ。
まぁ、周りが止めるでもなくそれを煽っているから、と言うのも十分理由に入るが。
「く、国光…穏便にね?」
どんどん眉間の皺を深めていく手塚に、紅は内心冷や汗を流しつつ言う。
「雪耶、止めてももう遅いよ?」
「お前達全員明日の朝練前にグラウンド30周!」
不二の言葉から数秒と経たずに手塚の雷が落ちた。
「にゃ!?これは桃の所為だってば!!」
「え、英二先輩!!抜け駆けは卑怯っスよ!!」
「てめえが煩いからだ」
「……あぁ?やんのか!?」
お互いに胸倉を掴み合った桃城と海堂。
大石と河村が保護者的存在になっているのは否めない。
菊丸は早々に二人を煽る役へと回っている。
そうこうしている間にも二人のにらみ合いは続き…
「三人が10周追加される確率…「菊丸、桃城、海堂40周だ!」」
再び店内に手塚の声が響く。
「はい、紅。あ~ん」
「………いや、止めようよ」
「いいのいいの。私達が走らされるわけじゃないし」
「そうだよ。彼らの事は放っておけばいいから。自業自得」
「自業自と……んぐ!」
呆れた風に溜め息をついた紅の口内に、悠希はスプーンごとパフェを放り込む。
「美味しいっしょ?」
「ホントね。……甘…」
「パフェ食べたすぐ後でコーヒーを飲むのってどうよ」
「だって…甘すぎ」
「あれ?雪耶って甘党じゃないの?よくプレゼント貰ってるよね?」
「紅はどっちかって言うと辛党よ。甘党は私。紅は律儀だからねー…一口食べたら私に寄越すの」
「へぇ、雪耶って辛いものが好きだったんだ?気が合いそうだね」
「…さすがの私もわさび寿司は好きじゃないわよ?」
騒がしい喫茶店内で只管平和な三人だった。
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05.03.27