Topaz  02 前編

「雪耶は手塚と付き合ってるの?」

人のよい笑みを浮かべた不二が朝練中に紅にそう問いかけた。
放課後の部活について話を進めていた紅と手塚が手を止めて不二を振り向く。
決して大きくない声だったのだが、部活中の部員の耳に届くには十分だった様だ。











「あー!それ俺も気になってた!!紅ちゃんってずーっと手塚の事名前で呼んでるもんね!」

不二に賛同するように菊丸が声を上げる。

「お、おい!英二練習中だぞ!」

そう言いながら、大石も菊丸の後を追って不二の元へと駆けて来る。

「先輩達面白そうな話してるじゃないっスか!俺も交ぜてくださいよ!」
「そう言う話は部活以外の時にするべきじゃないのかなぁ…」
「ほぅ…それは俺のデータの中にもなかったな。是非雪耶の回答を聞きたい」
「ちょ、ちょっと…何で皆集まってくるの?」

ゾロゾロと集まりだしたのを見て、紅が後ずさりしながらそう言う。
特にノートを片手にメガネを上げる乾はかなり迫力があった。
問題となっている片割れ手塚は眉を顰める。

「部活ちゅ「あれ?皆何やってるわけ?もう朝練終わり?」」

部室から出てきた悠希が手塚の声を遮って声をかけた。
手塚の眉間に更に皺が刻まれたことに苦笑しつつ、紅は彼女に首を振る事で答える。

「悠希ちゃんは紅ちゃんと手塚の関係知ってる?」
「もちろん」

菊丸に問われて、悠希もこの騒ぎの原因がわかったようだ。
ニヤリと明らかに企んでいる笑みを浮かべて答えた。

「教えて!」
「嫌。って言うか、普通本人に先に聞くでしょ」
「んー…紅ちゃん教えて~!」
「関係も何も「駄目よ、紅」」

今度は紅の声を遮る悠希。
遮られた本人は慣れた事と、怒ることもなく肩を竦めて見せた。

「何で?」
「こんな面白い話は後に取っておかないと」
「…………………」

一瞬彼女と親友をやっていていいのだろうかと疑問を抱いてしまった紅だった。

「何で教えてくれないの?」
「や、私は隠すほどの事じゃないと思うんだけど…悠希がね…」

不二の言葉に頬を掻きながらそう答える紅。
黙っていれば悠希はかなり整った顔立ちをしている。
しているのだが―――

「悠希、その何か企んだ笑みをやめなってば。あんた可愛い顔なんだから…」
「やだなー、私が企んでるわけないじゃん!私が可愛いなら紅は綺麗よね」
「煽てても何も出ません。それより…何考えてるの?」
「不二~!」

紅の問いを綺麗に無視して、悠希は不二の傍へと駆け寄った。
そんな事にも慣れているのか、紅はやれやれと肩を落とす。

「ごめんね、国光。私が名前呼んでるからこんな事になるんだよね」
「…いや、十中八九佐倉が原因だ」
「はは…私の親友が申し訳ない。で、放課後の事だけど…」

再び部誌を開いて手塚と話を始める紅。
集まっていた部員は二人の方ではなく、悠希と不二の会話に注目している。
程なくしてチャイムがテニスコートにも届いてきた。
部長の声で、朝練は終了を告げることとなった。













放課後、部室から出てきた紅を待っていたのは上機嫌な悠希だった。

「はい」

にっこりと笑みを浮かべて渡されたのは紅のラケット。
握らされたそれと親友の顔を交互に見つめる紅。
彼女の意図がよくわからず、ただ只管頭の中であらゆる事を考えていた。

「不二と試合してね。ちなみに部長に許可は取ってあるから」
「いつの間に…。それよりも何で私が不二と試合しなきゃいけないの」
「不二が勝ったら手塚との関係を教えるって事で決着がついたから」

サラリと当たり前の事のように言ってのけた悠希。
本人の知らぬ所で話が進められていたようだ。
固まっている紅の背を押してコートへと踏み込む。

「不ー二!紅連れて来たよ」
「ありがとう」
「ちょっと…桃は知ってたの?」

一番近くにいた桃城のジャージを引っ掴んで紅が聞く。
桃城は視線を逸らしながら頷いた。

「何で教えてくれないのよ…。知ってたら放課後までに何とか止めたのに」
「俺も先輩が試合してるところを見たかったんっスよ」
「私の試合なんて見ても面白くないでしょうが…」
「そーんな事ないよ!」

明るい声と共に背中にかなりの重さが加わった。
思わず前に倒れそうになった紅を、桃城が慌てて支える。

「桃…ありがと。英二、重いから退いて」
「にゃ!?」
「先輩、雪耶先輩が潰れます」
「あ、ごめん」

菊丸は桃城の言葉を受けて素直に紅の背を離れた。
重さから解放された紅は肺に深く息を吸い込んだ。

「こ、殺す気…?」

女子中学生の平均身長よりやや高めなだけの紅には、かなり辛かったようだ。
菊丸が慌てて紅に謝っている姿が見られた。

「紅~。そろそろ試合始めたいんだけど……なんでそんなに疲れてんの?」
「……………なんでもない」

事実を語ってしまいそうになった紅だったが、慌てて口を噤む。
悠希にとって大事な(面白い:こっちが本音)試合前に紅を疲れさせたとあれば、菊丸の明日が危うい。
ふーん…と納得していないような返事を返した悠希だったが、思い出したように紅をコート内へと押しやる。

「さっさと勝って来てね」
「いくらなんでも不二には勝てないですよ?悠希さん」
「大丈夫大丈夫。紅なら勝てるから」
「その自信は一体どこから来るの…」

呆れの色を含ませた言葉に、悠希はただ笑みを返すだけだった。

05.03.26