Topaz 01 前編
「知ってるか?3年のバスケ部がフリースローで1年の女の子に負けたって!」
「バレー部のレシーバーが受けられなかったらしいよ。それ位凄いレシーブだったんだって!!」
「ねぇ、弓道部で…」
運動部でどんどん広まっていく噂。
内容は決まって、その部の代表ともいえるような実力の者達がことごとく負けているのだと言う。
噂には尾ひれが付く一方だった。
まだまだ入学してそう日が経っていないある日の事である。
「悠希。部活見学行くよー」
「了ー解ー。ちょっと待って」
悠希が鞄を持って駆けて来るのを、紅はドアに凭れて待っていた。
「今日はどこから行く?」
「んー…バスケもバレーも見たから、体育館のはパスね」
「卓球とか興味ある?」
「ない」
「んじゃ、これも却下。っと、弓道部も昨日行ったよね」
二人は並んで廊下を進みながら、手に持った部活一覧表に印をつけていく。
「そろそろ本命行ってみる?」
悠希が印の付けられていない部を横から覗きながらそう言った。
そんな彼女の問いかけに、紅は苦笑を浮かべる。
「私はあんまり面白い部活が見つかってないんだけど…悠希はアレした事ないんでしょ?いいの?」
「大丈夫大丈夫。どうにもならなくなったら紅に教えてもらうし!」
「私のコーチでは上達しないわよ?」
「何を言ってんだか。紅は教えるの上手すぎなんだから大丈夫!それに…兄貴の見た事あるから何とかなるよ」
「そう?じゃあ…行ってみる?」
「OK!」
二人の意見が揃うと、その部へと向かおうと足を運びだした。
ふと、紅が前方の人物に気づく。
「国光!」
「紅?」
廊下を通り過ぎようとしていた手塚を呼び止める紅。
彼の元へと駆け寄るべく走り出した紅に合わせるように、悠希も同じく廊下を走る。
先生が通っていなくてよかったと思う悠希だった。
「どうした?」
「あのさ。これから部活?」
「ああ」
「じゃあ、連れて行って」
にっこりと笑みを浮かべてそう頼む紅に、手塚はすぐに頷いた。
手塚の了承を得ると、紅は悠希を振り返ってVサインを送る。
「じゃ、お世話になります、手塚」
悠希の言葉にも頷き、手塚は紅たちを連れてテニスコートへと移動した。
「ここでいいか?」
「ありがと!国光も頑張ってね」
そう言って手塚を見送ると、二人はテニスコートを一周するために歩き出した。
「広いね、やっぱり」
「コート三面だしねー。さすが、って感じかな」
「悠希は入るなら女子部?」
「………一応これでも生まれてからずっと女子のつもりなんだけど?」
紅の問いかけに悠希がそう返した。
苦笑いを浮かべて紅は首を横に振る。
「そうじゃないってば。男子のマネージャーって言う手もあるでしょ?」
「わかってるわよ!まぁね…そう言う手もあるけど」
そんな風に話をしながらコートの入り口まで戻ってきた。
その時、軽快な音と共に男子テニス部の方から怒鳴り声が上がる。
「バッ!!強く打ちすぎだ!!」
「そこの女の子たち避けて!!!」
自分達に向かって言っているのだと気づくと、二人はすぐに向かってくるボールを避けようと身体を動かした。
だが、紅は途中で避けるのを止める。
下に転がっていたラケットを拾い上げると、そのラケットでボールを打ち返す。
かなりの速度で飛んできたそれは綺麗に弧を描いてボールカゴに収まった。
もちろん、他のボールを跳ねさせる事なく。
完全に勢いを消されていたのだ。
その場に居た全員が目を見張る。
「わざわざ打ち返さなくても…あの部員絶対ショック受けたよ?」
「だって…」
悠希が呆れたように溜め息をつく。
その横で、紅は苦笑を浮かべながら頬を掻いた。
紅が顎で指した先には、二人の女子生徒の姿が。
偶然通りかかった生徒だったようだ。
あの時に二人が避けていれば、間違いなくボールは女子生徒のどちらかを直撃していただろう。
「相変わらずの王子様な性格で」
「失礼な…。あ、このラケット勝手に使ってすみませんでした!」
手に持ったままだったそれに気づくと、紅は慌ててコート内に頭を下げた。
そしてラケットを元の場所に戻す。
「君達に怪我はないですか?」
「え?」
不意に背後からかけられた言葉に、紅は慌てて振り向く。
そこに立っていたのは男子テニス部部長の大和だった。
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
「部員が失礼な事をしましたね」
「部員が…って、部長さんですか?」
紅の隣で悠希がそう問いかけた。
大和が頷く。
「ところで…君、テニスの経験は?」
「あります。小学校前からラケットを握っていましたので…」
「なるほど。それでその腕前なんですね。あのボールの勢いをよくあそこまで消せましたね」
「あ…ありがとうございます」
大和に褒められると、紅は嬉しそうな表情でそう答えた。
「練習を見て行きませんか?」
「「いいんですか?」」
二人の声が被る。
そんな二人にクスクスと笑いながら「もちろんですよ。先ほどのお詫びです」と大和は答える。
案内されるままにベンチへと腰を降ろす二人。
大和は、紅にラケットを渡した。
「?」
「さっきのような事があった時のためです」
「お借りしていいんですか?」
「もちろん。危ない時には盛大に打ち返してあげてください。それも部員の為になるでしょうから」
「いいんですか?この子に渡すと本人に打ち返すかもしれないですよ?」
「…それも本人の為になりますね。身をもって覚えられるでしょう」
「さ、爽やかな顔して中々つわものですね、部長…」
悠希がどこか引きつった笑みを見せていた。
05.03.19