廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

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生まれてから一度も掃除した覚えのない蔵の戸を開く。
誰かの管理のお蔭なのか、そう気になるほどの黴臭さはなく、ただ埃っぽい空気が迫ってくるだけだ。
それを吸い込まないように口元に布を当て、窓を開く。
そこから差し込んだ日の光に、きらりと何かが反射した。
視界の端に映ったそれに気付くと、紅は視線を動かしてそれを捉えようとする。

「?刀…?」

全身を視界の中に納めれば、それは鞘入りの刀だということに気付く。
漆を塗られたそれが、またきらりと日の光を反射した。
道場の師範代を勤める紅にとって、刀はそれなりに馴染みのあるものだ。
少し腰を屈めてそれを拾い上げる。
軽くは無い。
見かけとは裏腹にちゃちな作り…と言う事は無いらしい。

「レプリカにもお金がかけてあるのね…」

そう呟き、スッと鞘から刀を抜いた。
20センチほど刀身を露にした所で、その手を止める。
このような場所に置かれていたからか、レプリカだからか。
刀身は光り輝いては居らず、どこかくすんだそこに紅を映す。
暫しそれを見下ろしていた紅だが、やがて短い息と共に肩を竦め、チンッと刀を鞘に収める。

「まぁ、年代物の刀のレプリカだろうし…」

整理の途中でどこかへやってしまうには、惜しいくらいに綺麗な作りだ。
邪魔にならず、かつ絶対に間違って捨ててしまわない場所。
それを探すように、刀を片手に蔵の中をぐるりと見回す。

―――リン…

鈴の音がした。

「?」

自分が動いた所為だろうかと、自身を見下ろしてみるが、鈴らしきものは見当たらない。
無論、刀にもそんなものは付いていなかった。
気のせいだったのだろうか。
そう思い、もう一度顔を上げる。

――リン…

また、だ。
周囲を隈なく見回すが、やはり音源らしきものは無い。
置いてある物の陰にでも隠れているのだろう、と無理やりに自身を納得させようとした。
しかし、そこでぐるんと世界が反転する。

「…え…」

体勢を整える暇も無く、手を付く暇も無く、紅は吸い寄せられるように倒れこんだ。
意識を手放す直前、頬に木目の床ではなく、冷たい土の感触を受けたように感じながら。

07.01.29