悠久に馳せる想い
悠希が暁斗を呼びにきた時、彼は蔵馬と共に居た。
そのまま二人で屋上へと向かう。
「蔵馬はどうする?」
「…魔界で待つわ」
「置いていくのか」
そんな会話が聞こえ、蔵馬の眉が中央へと寄った。
水が溢れるような静かな怒りに、暁斗が口元を引きつらせる。
そして、今すぐにでも扉を破っていきそうな蔵馬の腕を取って無理やりに引きとめた。
「止めるな」
「はい!…って違う!そうじゃなくて!」
「暁斗…悪いけど、今はお前に付き合ってる余裕はないよ」
「そうじゃないってば!妖狐に戻してあげるって言いたかったの!」
暁斗の言葉に蔵馬は軽く目を見開いた。
そんな事が出来るのか、と言う問いかけの視線に、彼は躊躇いがちに「多分」と付け足す。
「俺の妖気、父さんのとかなり似てるんでしょ?一時的にでもその妖気を送り込めば、出来る…と思う」
「………そうか」
蔵馬の返事は一言だった。
そして、暁斗の頭の上に彼の手がポンと載る。
「…頼む」
尊敬する父からの頼みに、暁斗は顔を輝かせた。
「正直なところ、魔界に帰れるなんて思わなかったよ」
「そうなのか?てっきりお前は帰れることを喜ぶと思ったが…」
「だってさー…母さんを父さんから離すのなんか、絶対無理だし。それこそ命がかかってる時くらいじゃないと」
「あぁ、確かに…」
「母さんが離れようとしたって、父さんが離すわけないんだよ。あーあ…魔界の風が恋しいなぁ」
「暁斗一人でも、帰るなら手配できるぞ?」
「やだよ。魔界には母さん居ないじゃん」
いつまでも二人を見ていることに飽きたのか、暁斗は頭の後ろで手を組みながら階段を下りていく。
そんな彼に苦笑を浮かべ、コエンマもまた彼に続いた。
06.09.19