Meeting
First contact 竜也ver.

「そこのたれ目の兄さん。落したぜ?」

太陽を背にしている男は、酷く綺麗だと思えた。
話すのも恥ずかしいような、そんな出会い。








提出期限が迫る課題はすでに完成していて、のんびりと過ごせると思っていた昼休み。
水野は顔も知らない女子生徒により、その有意義である筈の昼休みに中庭へと呼び出された。
押し付けられる形で手渡された手紙を片手に、すでに去った女子生徒に向けて舌を打つ。
正直な所、そんな風にされても苛立ちしか残らない。
自分の容姿ゆえなのか、サッカーをしているというだけで十分なのか。
彼女らは騒ぐだけ騒いで、勝手に人の領域を侵す。

水野はむしゃくしゃした気持ちを晴らすために、昼からの授業をサボって屋上に出る。
春らしい、スッキリと晴れた空だった。

「馬鹿馬鹿しい……」

帰ろう、呟くように言い捨て、屋上から続く階段への扉を開く。
ドアノブに手をかけた時―――水野の真上を影が通る。
驚いて振り向けば、そこには銀髪で長身の男。
今しがたどこかから着地した所とばかりに膝で衝撃を和らげる男の学ランの着方が、同じ部員のシゲを思い出させた。

その男は腰を折って何かを拾う。
男は手の中のモノをじっと見つめると、口の端をあげて水野の方を向いた。

「そこのたれ目の兄さん。落としたぜ?」

男の指の間には、一通の手紙。
さっき女子生徒に無理やり押し付けられた物だった。

「はい、どーぞ」

そう差し出されても一向に手を出さない水野に、男は痺れを切らしたわけでもなく笑顔で彼の手を取る。
それから、しっかりと手の中に手紙を握りこませた。
男の行動が無性にイライラして、半ば払うようにして手を解く。

「余計な事するな」
「あららー…随分ご機嫌斜めだな」

少しキツイ言い方だったかと思ったが、難なくかわされてしまった。
今にもその手紙を捨てそうだった水野の手を、男が掴む。

「人の気持ちを……無闇に捨ててやるなよ」
「お前には関係ないだろ!」
「……じゃ、俺のために言うわ。折角俺が拾った奴を目の前で捨てられたらたまんねぇ」

――どうせなら俺の見えないところで捨ててくれ。
笑いながら、そう言った。
すると、男は再び屋上の死角に上がろうとした。
……が、ふと足を止める。

「俺、雪耶暁斗。お前は?」
「水野竜也だ」
「あぁ……お前がタツボンか……」
「その呼び名で呼ぶな!」
「あ、赤くなってやんの。お前、面白い奴だな」

笑うだけ笑うと、暁斗はさっさと視界から消える。
自分勝手な奴だとは思ったが……何故か、許せた。
イライラしていた気持ちが、少しだけ晴れた気がする。
再び押し付けられた手紙をポケットに入れると、水野は屋上を出て行った。

「へぇー…アレが成樹のお気に入りの“タツボン”か……。うん。面白い」










放課後、いつも通りに部活に出たら……暁斗がいた。
暁斗はシゲと仲良さげにじゃれ合っていた。
二人はそこに居る水野に気付くと、手を持ち上げて―――

「「よ、タツボン」」
「タツボンは止めろ」

即座にそう言ってきた。
この時、水野ははっきりと感じた。
―――暁斗はシゲと同属だ、と。




水野が感じたのそれは間違いではなかった。
部活中、暁斗は常に成樹の傍にいる。
二人はいつも同じ視界に入る位置に。
そして―――練習もなしに成樹との2トップをやってのけたのである。
サッカーセンスは成樹と同じか、それ以上。
動きも軽やかで、目で追わずにはいられない奴だと思った。

「タツボン、何やってんだ?」
「お前か…」
「お前じゃなくて、暁斗!名前教えただろ?」
「そうだったか?」
「あのなー…人の名前くらいは覚えろよな。顔まで無理して覚えろとは言わないからさ」

本当は覚えていたが、あえて嘘をつく。
そんな水野の嘘にも気を悪くした様子を見せず…むしろ楽しんでいるように笑った。

「暁斗!何しとんねや?」
「んー?タツボンと話してた」
「タツボン言うな」
「タツボンもいつまでも煩いなぁ……ええ加減諦めぇや」
「……じゃあ、竜也で!」
「「は……?」」
「いや、タツボンが嫌なんだろ?だから、俺はこれから竜也って呼ぶことにするから!」
「いや、暁斗…「集合―――!!」」

それも違うと言おうとした時……無情にもキャプテンの集合がかかる。
助っ人である成樹も、暁斗に引っ張られながら面倒そうに皆の方に集まった。

「もう知ってるとは思うが…雪耶だ。今回シゲの活躍で助っ人としてサッカー部に入ってくれる」
「どうも。ま、勝手に入れられたって方が正しいけど……サッカーは好きだから」

“サッカーは好きだから”

そう言った暁斗の表情には、一点の迷いもなかった。
本当に、それが好きだと…眼が語っていた。

「実力はさっきの試合でわかっただろう!これからはシゲのパートナーとして活躍してもらうぞ!」
「げ……何か夫婦関係みたいですごい不本意なんですけど…」
「それは酷いんちゃう?」
「お前に言われたくねーよ」
「お前ら……夫婦漫才は後にして部活に戻ってくれ…」
「了解、キャプテン」
「しゃーないなぁ…」

ぶつぶつ文句を言う振りをしても、結局は仲のいい二人。

「竜也!何ぼーっとしてんだ?練習始まるぜ?」
「あ、ああ。すぐ行く」

暁斗は水野が追いつくのをその場で待っていた。
そして、思い出したように手を差し出す。

「…?」
「手!」
「手?」

言われたとおりに手を差し出せば、ぐいっと掴まれる。
それは、所謂“握手”という奴で。

「これからよろしくな!」

暁斗はそう言って笑顔を見せた。
今日告白してきた女子生徒がもし暁斗だったら………いい返事が返せたかもしれないな。
そんなありえもしない事をぼんやりと考えていた。



「竜也って、めちゃくちゃ普通やん」
「まぁ、普通だけどさ。皆呼んでないじゃん」
「まぁ、タツボンは基本的に苗字で呼ばれるからなぁ」
「だからOK!問題なし!」
「そう言うもんなん?」
「そう言うもんなんだって。本当はたつにしようと思ったんだけどさ、何か語呂が悪くて」
「たつ、たつ、たつ………力が抜ける呼び方やな」
「だろ?」

Rewrite 07.09.06