冬、昼下がり  Soccer Life

夏よりも動きの悪い身体を解すように、準備運動を始める。
チームの練習は明後日から始まる予定だが、天気予報は生憎の雪。
大寒波が訪れるでしょう、というラジオの天気予報士の声に、今年何度目かな、と思う。
そして、プツッとラジオを切った。

「成樹、準備運動できた?」
「こっちはいつでもええで~。寒さに震えてるだけや」
「じゃあ、身体を動かして温まろうか」

隣に用意していたボールをぽんと蹴り出し、まずは彼にボールを渡す。
ポジションチェックを兼ねた練習を思いついたのは今朝のこと。
サッカーしよっか、という誘いに、外の気温も省みず即座にOKを出したのは成樹だ。

「次、フォーメーションB行こうか」
「それはMFおらんと無理やで」
「あ、そっか。じゃあ…Cで」
「はいよ」

広いグラウンドの中で走っているのは、紅と成樹だけ。
しかし、彼らの頭の中には、ボールを目指す相手が見えている。
彼らの動きをイメージして、フォーメーション通りに動く二人。
紅の繋いだパスが成樹の足元へと通り、絶妙なタイミングで放たれるシュート。
二人の表情に満足の色が浮かんだ。
近づいてくる彼に答えるように軽く腕を持ち上げ交わされるハイタッチ。

「イメージどおりやな!」
「相手さんが思うように動けば、だけどね」
「いや、ええ感じや!これならあいつらも思うように動けるはずや。
本番になると決定力に欠ける奴らやさかいなぁ」
「大丈夫。今月末には試合もあるし、調整さえ上手くいけば使えるって」

シュートしたボールが独りでに帰ってくることはないから、紅が歩いて取りにいく。
白いネットに絡み付いていたそれを足でゴールから蹴り出し、成樹にパスをした。

「さ、もうちょっと動こうか。成樹、1対1な」
「コート広!!まぁ、受けてたつわ」
「負けた方が今日の夕飯担当ってことで」
「よーし。本気でいくから覚悟しぃや」
「望むところ!」

コイントスでボールを決めて、二人が走り出した。










ロッカールームのシャワーで汗を流し、着替えてから駐車場へと向かう。
二人が乗り込んだ車は成樹のもの。
ちなみに紅はあまり使用頻度の高くないバイクを持っている。
それが玲の影響であることは説明するまでもないだろう。

「時間もちょうどええし、帰りに夕飯食ってこか」
「ん?別に良いけど」
「前に気になる言うてたイタ飯でどうや?」
「あぁ、覚えてたんだ。でも、混んでない?」

車を走らせる成樹の横顔を見ると、彼は得意げに口角を持ち上げた。

「あそこは予約出来んねんで」
「なるほど、用意周到なことで。道理であの時手を抜いたわけだ」
「なんや、お見通しかいな。つまらんわぁ」

大げさに肩を落とす彼に、今度は紅が笑う。
1対1は紅が勝った。
彼女はそれが成樹の謀であると気づいていたのだ。
いつから計画していたのかは知らないけれど、今日は外食に誘うつもりだったらしい。
本当は勝負事で手を抜かれたことに怒るつもりだったのだけれど…今日だけは勘弁してやろう、と思う。
窓の外を流れる景色を見ながら、紅はそっと唇を持ち上げた。

「明後日の天気、大丈夫だと思う?」
「グラウンドが駄目になるほどは降らんやろ」
「でも、雪の中の練習は寒いなぁ」
「水捌けは悪くないんだけどね…雪はさすがに」

どうなることやら、と考える紅の視界に、ふわりと白いものが舞い降りてくる。
雪だ。

「…降ってきたな」
「ま、この雪なら積もらないよ。明日は晴れって予報だったし」
「さよか。あー…休みも明日までか…。のんびり出来てよかったんやけどなぁ」
「これ以上長いと身体が鈍って大変だって」
「明日はどないすんの?」

信号が黄色に変わって、ゆっくりとブレーキを掛ける。
停車した車の中、成樹がそう問いかけた。
紅は窓の外に向けていた視線を彼へと向ける。

「実家に帰る」
「…そう言うと嫁に帰られるみたいや…」
「誰が嫁か。父さんが始まる前に顔を出せってメールしてきたからさ」

見る?と携帯を持ち上げる紅に、必要ないと首を振る。
紅の父が言いそうなことだ。
信号が青に変わり、アクセルを踏み込む。

「予定が開いてるなら成樹も連れて来いって。どうする?」
「ええで。俺ん家は月末の試合のときに顔出すって言うてあるさかい」
「あぁ、そう言えば近いね」
「紅も行くか?お袋が顔見たい言うてたわ」
「んー…じゃあ、お邪魔します」

紅がそう答えると、成樹の横顔が嬉しそうに笑う。
それからは取り留めない会話をして、駅前のイタリアンのお店の駐車場に車を停めた。
車を降りた紅はうーん、と身体を伸ばす。

「もう年明けって言うより日常が帰ってきてるね」
「せやなぁ」
「新しい年…かぁ。成樹と過ごすのは何年目だっけ」
「10年ちゃうか?」
「そっか。長いなぁ」

雪の止んだ空を見上げ、そう呟く。
吐き出した息が白く曇った。

「紅、風邪引かんうちに店に入ろか」
「はいはい」

促され、当然のように彼の隣に並ぶ。
この距離ももう10年になるのかと思うと、どこか感慨深いものがあった。
クスリと笑った彼女に、成樹が首を傾げる。
けれどそれを追求することなく、二人は店の中へと消えた。

10.01.04