Usage of holiday

大きな買い物袋を二つ両手に提げて歩く前の少女。
背中は少年にも見えるが、事実を知っている成樹が間違えるはずもなかった。

「おねーさん、買い物に付き合いましょか?」

そう言って両方の荷物を片手で取り上げると、その少女の視線が成樹の方を向く。
次の瞬間には柔らかく微笑む彼女に、成樹も同じく笑みを返した。







部活も休みで、久々の休日。
疲れを癒す為の睡眠に午前中の殆どを費やした紅。
昼前に漸く目覚めて、未だ霞みがかった頭で考えたことと言えば…

「そう言えばボールが壊れたんだっけ。新しいスパイクも要るなぁ…」

いつもと同じようにサッカーの事だった。

偶の休みを利用して買い物に出かける事を決めた紅の準備は早かった。
楽なクロのTシャツに袖を通し、ジーンズを穿く。
適当な日よけの帽子を被れば、一見しただけでは男か女かわからない紅が出来上がった。
もっとも、いつものように本腰を入れて男装していないためにばれる危険性もあるが。

「……ま、隣町のスポーツショップなら大丈夫だろ」

そう納得すると、財布の入った鞄を片手に家を出発した。














「何か…前にも似たような事があった気がする」

成樹に荷物を取り上げられた紅が歩きながらぼやく。
とりあえず二つのうち一つの袋は取り返したのだが、重い方は未だ成樹の手の中にあった。

「何の事や?」
「前にも…あぁ、あの時だ。ほら、俺が女だってばれた時」(番外編:male or female?)

思い出すように顎にやっていた手をポンッと叩く。
そう言えば、あの時もかなり離れたデパートに赴いていた。
なのに、今と同じように成樹と共に並んで歩く事となったのだ。
あの時は隣に妹である聖の姿もあったが。

「あぁ、そんな事もあったなぁ」
「何でわざわざ隣町まで来たのにお前に会うわけ?」
「んー……運命?」

おどけてそう言った成樹に、紅はワザとらしく溜め息を落す。
ふっと口の端を上げると、綺麗に微笑んで見せた。

「それは安っぽい運命で」

その表情とは裏腹に、言葉はどこか冷たさを感じさせるものであったが。













この辺りにはフットサルが近いことも関係するのか、スポーツショップが多かった。
数十メートルおきに鎮座しているそれら全てを覘いて目当ての品を探す。

「次は何や?」
「スパイク」
「せやったら向こうの並びの店にええのが揃ってんで」
「へぇー…よく知ってんだな」
「俺もよう行く店やねん」

ネットの中に入ったボールを自分の前方で遊ばせながら、紅が成樹の後を追う。
初めの角を曲がった所で、その店は二人の眼前に現れた。

「結構大きい店なんだな」
「せやろ。裏道に差し掛かるとこやから見つけにくいんやけどな」

確かに、そこは人通りの多い通りから一本分裏道に入らなければならない。
大通りに面するように軒を連ねる他の店に比べれば見つけにくいだろう。

「品揃えは?」
「それは見てのお楽しみや」

笑ってそう答えると、成樹は先に店の中へと踏み込んだ。
紅も同じく店内に足を踏み入れる。

「よぉ、成樹!!久しぶりだな!」

店の主であろう男が成樹にそう言った。

「久しぶりですわ。今日はスパイク見せて欲しいんやけど」
「スパイク?お前この間買ってったじゃねぇか。もういかれたのか?」
「ちゃうちゃう。コイツのや」

そう言って後ろから紅の肩を押して前へと出す。
中学生の彼らとは20センチほども身長差のある店主と、紅は見上げるような形で視線を合わせた。

「お、前に話してた奴か?」
「せやで。コイツ、めっさ上手いねん!ええスパイク売ったって」
「成樹が押すなら間違いねぇだろうな。よし!こっちに来いよ。…あーっと…名前は?」
「あ、すみません。雪耶です。雪耶暁斗」

咄嗟に男装時の名前を言えるようになるまでは随分時間がかかったが…
今では本来の名前を名乗る事のほうが少ないので、決して難しいことではなかった。

「暁斗な!安くしてやるから好きなのを選んでいけよ」

そう言ってスパイクの並ぶ棚の前へと案内してお勧めを紹介すると、店主は奥へと引っ込んでいった。
紹介されたうちの一つを持ち上げる紅に成樹が言う。

「ええ店やろ?」
「ああ。品揃えばっちり」

店内に他に客はない。
二人はサッカー用品が並ぶ棚と向き合ってあれやこれやと言葉を交わしていた。
一つを持ち上げては、相手の反応を見る。
気に入ればそれを試して―――気に入らなければまた別の物を。
時折談笑を交える二人。

時は瞬く間に過ぎていった。














「ごめんな?こんな時間までつき合わせて」

バス停からの道のりを歩きながら紅が成樹に声をかける。
隣を歩く成樹が笑った。

「別にええよ。久々の休みに紅と出かけれただけでも役得やし」
「口の上手い奴」

苦笑いを浮かべて紅が視線を前方に向ける。
すでに傾きだして数時間経った太陽は、より深い赤みを纏ってその身体を沈めようとしている。
長く後方に伸びた影が、彼らの動きどおりに揺れる。

「明日からまた部活かー…」
「嫌なん?」
「まさか」
「ま、疲れるのは確かやけどな」
「でも、好きな事だから頑張れる」

そう言って笑った紅に、成樹も笑って「俺もや」と答える。

「来週は選抜の方もあるしな。お前は?」
「俺も週末から練習あるわ。地元の高校と練習試合や」
「おー、頑張れ。関東と関西を行き来するのって結構ハードなんだろうなぁ…」
「やってみるか?」
「遠慮します」

他愛ない言葉を交わしている間に、二人は紅の家へと着いた。

「荷物持ち、ありがとう」
「ほな、また明日な」
「ん。明日、学校で」

軽く別れの挨拶を交わし、成樹は帰路へとつく。
やがて、夜を支配するであろう三日月が、優しく見下ろしていた。

05.05.09