これが僕らの進む道

「信じられない!」

ま、誰でもそう言うと思うけどね…。
覚悟は出来ていたにしろ、面と向かってそう言われるのはさすがに応えるって言うか何て言うか。
とにかく、私は目の前の元友人――小島有希を前に苦笑を浮かべる仕方なった。















昔の好で代表合宿へと顔を出した有希。
久々の再会に彼女と面識のある奴等が軒並み揃えて駆け出して行った。
まぁ、休憩中だし誰が咎めるわけでもないが…。
私は別に行く必要もないか、とベンチの方へと歩こうとしたのだが。

「…何で引き摺ってくわけ?」
「丁度ええやん。小島の前で全部吐いてまえや」

自分勝手な我が親友によってベンチとは反対の…そう、彼らの元へと引き摺られていく。
成樹の声は明らかに楽しんでいるものだった。
それはもう、語尾に音符が付きそうなほど。
いくら鍛えていると言っても、相手は男で。
しかもその相手も鍛えているとあっては、勝負は見えている。
早々に抵抗をやめて引き摺られるままの私を荷物のように楽々運んでいく成樹。
彼らの集まりの傍まで連れて行かれるまで、そう時間は掛からなかった。

「シゲ!久しぶりー……っと、その人は?」
「これか?聞いたら驚くで~?」

雰囲気を盛り上げるためか、成樹はあえてすぐには口に出さない。
とりあえず緩んだ腕から逃れると、私は彼女に向き直った。
久々に見る彼女は肩ほどであった髪が長くなって…何より少女から女性に変わっている。
有希の好奇心旺盛な視線が痛い。

「“フィールドの舞姫”っちゅーたらわかるか?」
「……………嘘ぉ!!!」

信じられない、と言う風に声を上げる有希。
とりあえず、成樹は彼女の反応に満足したらしい。

「ほ、本当ですか!?」
「あー…まぁ、一応」

尊敬の眼差しと言う奴を一身に受ける私は、居心地の悪さを誤魔化すように頬を掻いた。

「なっ!」
「な?」
「名前、聞いてもいいですか!?」

何を力んでいるのやら…。
私は中学生時代にはあまり見られなかった彼女の一面に、思わず笑みを浮かべる。

「あはは!名前聞くのにそんな力む必要ないでしょ!」
「あ、そ…そうですよね。でも、憧れの選手だから緊張しちゃって…!」
「憧れ…ね。私の名前は雪耶 紅。以後お見知りおきを」

おー…赤くなってる。
向こうでも十分に通用した微笑みはどうやらこっちでも有効ならしい。
視界に映る奴らまで赤くなってる事はこの際だから無視しておこう。

「んで、名前は?」

一応初対面…と言う事で話が進んでいるので、聞いておく。

「小島有希です!!」

あぁ、やっぱり変わらないんだ?
何て頭の中で考えていると、不意に後ろから押し殺したような笑い声が漏れてきた。
先程から背後に立っていると言えばこの男の他はなくて…。

「笑うな、成樹」
「~~~っ!せっ…せやかて…自分ら面白すぎ…っ!」

必死に耐えていたようで、一度笑い出してしまえば暫くは治まらないらしい。
そんな成樹に「何だコイツは…」と言う視線を送っている有希。

「シゲ…何笑ってんの?って言うか…雪耶さんと知り合い?」
「紅でいいよ。私も有希って呼ばせてもらうから」
「あ、ありがとうございますっ!!」

……何か学生時代を思い出すかも…。
よくこうして頬を赤く染めて女の子たちが寄ってきてたっけ。
昔の…と言っても3年前の記憶に想いを馳せていると、いつの間にやら成樹が復活していた。

「小島…この顔に見覚えあらへんか?」

後ろから私の両肩を掴んで成樹が問う。
3年間でそれなりに身長差が生まれてしまって…成樹の顎は私のコメカミの辺り。
微妙にかかる息がくすぐったい。
有希には私と成樹の距離があまり快く思えないらしく…眉を顰めて成樹を睨んだ後、私の顔を見つめる。

「コイツの名前は雪耶やで?聞き覚えあらへん?」

思い込みと言うのはどうにもしつこいらしく…。
未だに気づけない有希に成樹が再びアドバイス。

「雪耶…雪耶………暁斗?」

3年間で忘れられたのか…はたまた記憶の奥底に仕舞われてしまったのか。
とにかく思い出すまでにかなりの時間がかかっていた。

「え?ちょっと待って?雪耶くんは男で…紅さんは女で…あれ?」
「お前の所為で混乱してる」
「せやな」

それがどうした、とでも言いたげな成樹。

「この姿……雪耶 紅では“初めまして”。そんで…雪耶 暁斗としては“久しぶり”だな」

決定的な一言を告げる。
そうしないと延々混乱を続けそうな勢いだったからね。

「雪耶くんは…紅さん?」

その答えを導き出した有希に、私は頷いて見せた。
有希の叫び声がフィールドに響く。

ま、この後の事は語らないで置こうか。
…ぼろ雑巾一歩手前まで問い詰められた経験は初めてだったな…。














「成樹の阿呆…」
「…それでも馬鹿って言わん所が紅らしいなぁ」
「言われたいのか?」
「謹んで遠慮しときます」

ベッドにうつ伏せの状態で倒れこんだ私。
普段の練習よりも身体が疲れているのは気のせいではないだろう。
設置してあったソファーに腰を降ろしたらしい成樹と背中で言葉を交わす。

「一個問題が片付いたやろ?」
「…まぁね」
「次は…どのチームに所属するかやな」

そう言うと、成樹は私の視界内へとバインダーを放り投げた。
その量は十を超える。

「どこのチームからも引張り凧やん。より取り見取りやな」
「まぁね。でも…」

否応なしに視界に飛び込んできたそれらを一瞥すると、すでに見慣れた一つを持ち上げて見せた。

「一応決めてあるんだよね」

うつ伏せから仰向けの状態へと身体を反転させると、腹筋を使って起き上がる。
ベッドに座り込んだ状態で成樹に持っていたバインダーを投げた。

「どこも魅力的だったんだけどさ?」

受け取って中身に目を通す成樹に構わず、私は話を進める。

「昨日今日と久々にお前らと動いてよーくわかったんだよなー…」

ベッドの上に散らかっているバインダーたちを綺麗に整頓して、すぐ脇にあったテーブルの上に載せておく。
こうしておけば、とりあえず寝ている間にバインダーに引っかかれることはないだろう。

「とある人物がね。それはもう動きやすくって…。3年のブランクを見事に克服してくれました」
「紅…これ…」
「さすがは自慢の親友って感じで。これからもよろしくね、チームメイトさん?」

成樹の手の中には、しっかりと記入済みの資料が挟まったバインダー。
チーム名は――――。



一緒になって、別れて。
また再び一緒になって。
これからも変動する私と成樹の道だけど。

これが僕らの進む道。

05.03.09