快晴-Fine weather-
「だーかーら!そこはそうじゃなくてこうだろ!!ここを…」
「そんなの簡単にこっちを抜けられるだろ。やっぱりこの方が…」
「それよりもこっちの作戦の方がよくない?この辺をこうして…」
炎天下…とまでは行かなくてもかなりの日差しの照りつけるグラウンド。
男達が頭をつき合わせて数枚の紙切れを覗き込んであれやこれやと話す。
時折聞こえる罵声やら文句やらもすでに慣れたものとなっていた。
「…頭つき合わせて考えるよりやってみた方が早くない?」
「…俺もそう思うんやけどなぁ…」
「とりあえず、したい様にさせておけよ。そのうち気づくだろ」
こちらはそんな彼らを遠くから見つめる面々。
メンバーは言うまでもなく元桜上水サッカー部連中だった。
昨日合宿に復帰したばかりの風祭は早々に練習に打ち込んでいる。
「あ、カザが練習してる…。カザー!交ぜて交ぜて」
一人リフティングに勤しんでいた風祭の元へと紅が走る。
二言三言交わすと、風祭がボールを保持して駆け出した。
紅も笑顔を浮かべながらそれを追う。
「まだまだ子供やなぁ」
「そう言いながら交ざろうとしてるお前は何だよ?」
「そう言うタツボンかて…足が動いてはりますけど?」
そんな会話をしながら、二人は風祭と紅の元へと歩いていった。
「本当に面白いわね。休憩時間だって言うのに彼らは頭を悩ませているし、かと思えば彼らは子供みたいに遊んでるわ」
グラウンドを見渡せる窓から、玲はその様子を眺めていた。
「それはそうと…雪耶はもう大丈夫なのか?」
「3年の間に自分の限界をきっちりと叩き込まれたらしいわ。彼女ならそれを理解できている」
「そうか…。……………それはそうと…そろそろ止めた方がよくないか?」
松下が一方の集団を指さして言う。
指を追って、玲も同じくそちらに視線を向けた。
「…まったく…良くも悪くもサッカーの事になると頭に血が上る子ばかりだから…」
何やら言い争いに発展しそうな集団に目を向け、玲は苦笑を漏らす。
傷付けあうような馬鹿はいないと安心しているだけに手は出さないつもりのようだが。
そうして、玲の視線は再びフィールドを駆ける紅へと向けられた。
「そろそろやばいな」
ボールを転がしながら紅が言う。
「ああ。ホンマ、休憩時間まであないに必死にならんでも…」
「や、それは私達にも十分言えると…」
左右に転がしながら、時にフェイントも交ぜて。
成樹がボールを取ろうと何度か差し出す足は、毎度見事にからぶる。
「紅さん!」
「はいよ」
名前を呼ばれると、確認すらせずにヒールで後ろへ放つ。
攻防が成樹と紅から風祭と水野へと移った。
「さて…あれはどうしようか?」
「んー何もせんでええんちゃう?」
「そう言うわけにもいかないかと…」
聞こえてくる声に、紅は眉を寄せた。
休憩時間の一時の事だと安心していたのだが…如何せん熱くなりすぎているようだ。
それに気づいてさっさとその場を離れている奴もいるが…。
「…止めてくる」
そう言うと、紅はそっちへと歩き出した。
成樹は溜め息をつきつつも同じく紅の後に続く。
熱くなっている、そう言えば聞こえはいいかもしれない。
だが、度を過ぎればただの喧嘩。
「はい、ちょっと失礼」
男ばかりの中に、女の声が響く。
と同時に、一人の後頭部にボールが直撃する。
思わぬ登場に、一時ではあったが黙り込んだ。
ボールを当てられた人物以外は。
「雪耶~?何で俺に当てるんだ!?」
「一番邪魔だったから」
被害者、鳴海の言い分に視線すらも寄越さず、紅は作戦の書いてある紙切れを持ち上げた。
それに一通り目を通す。
「ふーん…で、これのどこでそんなにもめてるわけ?」
一番近くにいた翼に紙切れを向けながら問いかける。
鳴海の様子に溜め息をつきながらも、翼は丁寧に指で指して説明してくれた。
「…なるほどね」
「雪耶!!」
「うるさいなー…避けられない方も避けられない方だと思うけど?真っ直ぐ蹴ったんだからね」
面倒そうに振り向きながら紅はそう答える。
そして、再び顔を前に戻した。
「んじゃ、気に入らないならやってみよう。一番やりやすい作戦でいいだろ?」
ベンチにバンッと作戦用紙を押し付けると、紅は口角を持ち上げる。
「やってみようって…」
「何?出来ないわけ?」
紅が周りに集まる奴らに挑戦的な視線を向ける。
「「「まさか!」」」
「はい、じゃあ早速ね」
彼らが紅の思惑通りに事を進めてしまったと気づくまでそう時間は必要なかった。
考えるよりもやってみた方がよっぽど早かった。
そう思わずにいられないくらい、結果は一目瞭然。
「玲さん、すみませんでした。練習時間に食い込んでましたよね?」
「大丈夫よ。今回の作戦の良し悪しも判断できたから」
「そうですか。じゃあ「紅~」」
玲と話していた紅の背後から成樹の声が聞こえた。
――ドカッ――
「でっ!」
紅が振り向くよりも早く、鈍い音が響く。
「…げ」
鳴海がやばいとばかりに表情を引きつらせてさっさと退散していくのが紅の視界にはっきりと映った。
同時に後頭部を押さえる成樹の姿も。
「ったく…成樹、大丈夫か?」
「…だ、大丈夫やで…」
身体ごと成樹を振り返りながら紅は溜め息をついた。
後で仕返しをしておこうと心の中で決意しながら。
そんな二人の隣で、玲はクスクスと堪えきれない笑みを零していた。
「?玲さん?」
「クスクス…ふ、藤村くん…あなた…」
「あー…監督さんそれは秘密の方向で」
バツが悪そうに頬を掻きながら笑う成樹に、紅は首を傾げていた。
紅を狙っている鳴海を見つけた成樹。
声をかける振りをしてそのボールの軌道に入り込んだと言うのは、本人と玲しか知らない事である。
「あ、成樹。鳴海のボールの軌道に入らないようにね。危ないから」
「……………」
―――鳴海が自分を狙っていた事には気づいているようだが…とりあえず、成樹の本心は悟られていないようである。
05.02.10
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