迷子シリーズ   ::幼い記憶ver.::


「あれ?君…どこから…?」

いつの間にやら自分のコートの裾を掴む一人の少年。
コウは少年に目線を合わせるように屈みこむと、にっこりと微笑んだ。
不安にゆがむ表情が、僅かに和らいだように思う。














「おい……コウは…?」
「え?コウはそこに…」

アルが後方を指差すが、そこには品物が物言わずに陳列しているだけであった。

「「…………………」」

二人は盛大に溜め息を漏らす。











とある店の中でエドたちは旅の必需品の買い物に来ていた。
そう小さくはない街。
この店も、どちらかと言えば大きい。
そんな場所で……3人は逸れた。

と言っても、逸れたのはコウだけだったのだが。





「ふーん…じゃあ、お母さんと一緒に買い物に来たんだ?」
「うん!姉ちゃんは誰と来てるの?」
「私はねぇ…兄弟みたいな幼馴染と」
「幼馴染…?」
「友達よ」

わかりやすく説明しながら、コウは店の外を歩いていた。
少年の名前はケイ。
先ほどエドたちといた店の前で母親と逸れたらしい。
彼の母親を捜すために一緒に歩いているわけだが…。
コウ自身、自分が捜される身であるとは思ってもいない。
ニコニコと笑みを浮かべたまま、ケイが手を引くままに通りを歩いているのだ。

「うーん…お母さんと何を買うつもりだったの?」
「色々!」
「…じゃあ、どの店に行くのかわかる?」
「えっと…こっち!」

ケイはこの街に住んでいるらしく、土地勘があるようだった。
裏路地を小走りに通り抜け、別の通りへと出る。
そんな風に、コウはケイと共に街中を進んでいた。











一方、店の中にコウの姿がない事とわかったエドとアル。
早々に会計を済ませると、通りをキョロキョロとしながら歩いていた。
エドといい勝負のコウの身長では、人ごみに埋もれる為に捜すことは容易ではない。
しかも、コウには裏路地まで知り尽くしているケイが付いているのである。
エドたちが北へ向かっている頃、コウは東へ向かっていた。


かと思えば、南を目指して進路を変える。
交わる事のないエドたちとコウの進路。

「だ――――っ!!!どこ行ったんだ、アイツはっ!!」
「兄さん…落ち着いて」

疲労のないアルとは違い、エドは走り回ってクタクタだった。
気の毒のようにも思えるが、これだけ走り回って会わないのはある意味才能である。

「ったくよぉ…自分が方向音痴だって事理解してんのかよ…」

巡りに巡って、再び最初の店まで戻ってきた二人。
エドの科白でわかるように、コウは極度の方向音痴である。
しかも、自覚が無い。
更には『山のある方が北』という不思議な思い込みをしている節がある。
これではいつまで経っても目的地に辿り着けるはずがなかった。

「あー…ホントにどこ行ったんだ?アイツは…」
「本当…ここまで捜して見つからなかったのって初めてだよね」

店の前のベンチに腰を降ろしたまま空を仰ぐ。
傾き始めた太陽が、徐々に赤みを帯びてきていた。
そんなエドとアルの前を、周りを見回す女性が歩いていく。
その様子は、まるで何かを捜している様。
先ほどまでの自分達と同じ様子の女性に、二人は顔を見合わせた。

人当たりのいいアルが先に動いた。

「あの…誰かを捜してるんですか?」
「え?」

振り向いた拍子に、女性の髪がふわりと揺れた。

「私の息子を見ませんでしたか?これくらいの子なんですけど…」
「その子の特徴は?」

アルの横に並んで、エドもその特徴を詳しく聞く。











エドとアルがケイの母親と出会った頃―――。

コウは三人がいる店の通りへと出ようとしていた。

「見つからないねぇ、お母さん」
「うん…」

いくらか沈んだ声のケイ。
やはり誰かが傍にいても母親が傍にいなければ不安なのだろう。

「大丈夫!お母さんも捜してるだろうから…すぐに見つかるよ」

笑顔でそう言うと、二人は通りへと出る。
と、そこでケイが走り出した。

「母さん!!!」

そのままの勢いで女性の腰の辺りに飛びつくケイ。
女性は初めこそ驚いたものの、すぐに我が子を抱きしめた。
そんな二人を見ながら、コウがゆっくりと歩いてくる。
そして、女性の向こうに見知った人物を見つけた。

「あ、エドとアル」
「「コウ!?」」

ヒラヒラと手を振りながら歩いてくるコウ。
真っ先にエドが駆け寄って………

――ゴンッ!!!――

「痛っっ!!!」

コウの頭に拳を落す。
ちなみに右腕。
頭を押さえて蹲るコウの目には薄っすらと涙が滲んでいる。

さすがにエドも本気では殴っていない。

「どこに行ってたんだ!!あちこち捜し回ったんだぞ!!!」
「はぁ?」

エドが怒鳴るが、コウは訳がわからないと言う風に首を傾げる。
そんな様子を見て、アルが先にある事に気づく。

「兄さん…まさか…」
「また迷子になってたんだろ!?」

アルの声はエドには届かず仕舞い。

「迷子って…私はこの子の母親を捜して街を歩いてただけなんだけど…?」

それを聞いて、エドもようやく気づいた。

「……なぁ、アル…」
「多分そうだよ、兄さん…」

嫌な予感は的中のようである。

「一体何なのよ…」

要するに、コウには自分が捜されていたと言う自覚が皆無なのである。
コウからすれば、何故二人がこうも焦って自分の傍に来たのか…それすらもわからない。
フルフルと肩を震わせるエドを見て、コウは再び首を傾ける。

「……迷子を助けて自分が迷子になるなっ!!」

本日二度目のエドの怒鳴り声が、通りに大きく響いた。









=おまけ=

「姉ちゃん今日はありがとうな!」
「いえいえ。私も楽しかったよ」
「なぁなぁ、屈んでくれよ」
「何?」
「おい、コウそろそろ…………!?!?!?!?」

振り向いたエドが見たのは…頬にキスを受けるコウの姿だった。

「今日のお礼!今度この街に来たら絶対に俺の家に寄ってくれよな!!」

そう言うと、母親に手を引かれて家路へと着いた。
その後、今にも錬成を始めそうなエドを止めるアルの姿が通りで見られたとか。