ごめんと言う言葉より   ::幼い記憶番外編::

「ごめんね?」

コウがすまなそうに布団から顔を出した。
エドはそんな彼女に苦笑を浮かべてその額に冷たく濡れたタオルを載せる。

「ンな事気にしてんじゃねぇって」
「うー…だって…」
「もう寝てろ」

話は終わりだ。と下げられた布団をコウの上にかけなおしてベッドに寝かせた。













いつもと同じ朝のはずだった。
昨日の遅くに入った宿で一夜を過ごし、コウ、エド、アルは今日中にその町を発つ。
そう言う予定だったのだ。
朝、二人よりも少し遅くに部屋から出てきたコウ。
一番に声をかけたのはエドだった。

「おはよ、今日は珍しく遅いじゃん」
「おはよう、エド、アル」
「おはよう、コウ」

挨拶を交わしてコウが二人に近づいた。
ふと、そこでエドの顔が曇る。

「……コウ」
「な、何?」

至近距離から顔を覗き込まれて、不覚にも頬を赤くするコウ。
いや、起きてきた時から赤かったような気はしなくもない。

「お前…顔色悪くないか?」
「え?そんな事ないって!」

にっこりと微笑んだコウに、未だ納得していないもののエドは顔を離す。

「お金、まだ払ってないんでしょ?私払ってくるから」

自分の荷物を持ち直してコウが宿の主人の所へと走って行った。

「兄さん…どうしたの?」
「ん?ああ……何でもねぇよ」

腑に落ちない顔をしていたエドを心配するアル。
エドは首を振ってそれを否定した。
だが、その視線は未だにコウの背を追っている。
主人と話すコウを見ながら、エドは何かを考え込んでいた。
クルリと向きを変えてこっちへ戻ってくる彼女に、少なからず安堵の表情を戻す。
と、急にエドが走り出した。

「――――っ!!コウッ!!!」

コウが崩れるようにエドの腕の中へ倒れこむ。
距離はあったものの、早めに気づき走り出したエドだから受け止める事ができた。
腕の中に納まったコウにほっと息を吐き、そしてその額に手を当てた。

「コウ!?」
「やっぱり熱あるじゃねぇか……」

平熱以上の熱さを伝える額に、エドが呆れたように溜め息をついた。
腕の中のコウの意識はすでにない。
それに気づいた主人が三人の元へと近づいてきた。

「大丈夫かい?」
「ああ…多分風邪。昨日はどしゃ降りの中を走ったからな」
「もう一日延長してもらえますか?」
「わかった。医者は通りの向かいにある」

主人に礼を言うと、エドはコウを抱き上げた。

「俺部屋に連れて行くから…アルは医者を頼むな」
「わかった」

外へと向かうアルを見送って、エドは階段を上がって行った。










コウの意識が戻ったのは医者に診てもらってから数十分後だった。

「…ああ、大丈夫か?」
「あれ…?ここ……」
「まだ宿。お前倒れたんだぞ?」
「そっか…またやっちゃったんだね」

薬で身体が楽なのか、コウが笑みを浮かべた。

「お前なー…無理しすぎ。小さい頃からだけどさ…その癖、直せよ」
「うーん……無理」
「………はぁ」

ベッドの横まで椅子を持ってきてそれに座る。
背もたれに顎を乗せるように座ると、コウの額に手を当てた。

「熱は下がったな」
「エドの手…冷たくて気持ちいいー…」
「あのなー…」

擦り寄るようにするコウに苦笑を浮かべながらも、エドはその手を放さなかった。

「心配かけたくないのはわかるけど……黙って倒れられる方が逆に心配する」
「……ごめんなさい」
「小さい時からの事だから癖なのはわかるけどよ……。

俺らにまで遠慮するなよ」
「うん……」
「心配くらい…かけていいから」

弱弱しく微笑むコウ。
それに小さく笑みを返すと、エドは手を放した。

「何か食べれるか?」
「んー……無理そう…。

………ねぇ、アルは?」
「図書館で調べ物」
「アルにも迷惑かけちゃったなぁ…。ごめんね」
「知ってるか?

“ごめん”より“ありがとう”の方が何倍も嬉しいんだぜ?」
「……じゃあ、ありがとう」
「おう」

ニッと笑うエドにコウも声を出して笑った。

「ね、小さい時みたいにおまじないしてよ」
「……アレか…」

ねだる様に言うコウに苦笑いを見せて、エドが椅子から立った。
ベッドの脇に立つと身体を屈める。
そして、コウの額にキスを落とした。

「早く治せよ?」
「…うん」

至近距離でその青い目を見つめ、そう言った。

そして、もう一度その額に唇を落とした。




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