記憶を失う日 ::幼い記憶番外編::
「エド、アル!また明日ね!!」
「うん、コウ!」
「じゃあな!!」
そう言って、いつもの様に別れた。
「ウィン、おはよ!朝だよー」
「おはよー…」
まだ寝ぼけているウィンリィから離れ、カーテンを開けるコウ。
その隙間から朝の日差しが差し込んできた。
「ばっちゃんがウィンを起こして来いってさ。起きて!」
「はぁーい」
ようやくベッドを離れたウィンリィの背中を押しながら階下へと降りる。
「やっと起きたかい、ねぼすけ娘」
「誰がよぅ…」
目をこすりながら洗面所に向かうウィンリィを見送って、コウは一足先に食卓についた。
「今日もエドたちのところに行くのかい?」
「今日は昼から行くよ!ご飯食べたら畑のおじさんが話を聞かせてくれるの。そっちに行った後で!」
「そうかい、じゃあお昼は食べてからだね」
「うん!」
朝食を頬張りながらコウが嬉しそうに微笑んだ。
その後、コウは話していた通りにおじさんのところへ出掛けて行った。
その頃、エドとアルはひたすらある物の準備に追われていた…
「じゃあ、行ってくるー」
昼過ぎ、コウはピナコとウィンリィに見送られ、エドたちの家へと向かった。
「エドー!アルー!」
玄関のドアを開けて中へと入っていく。
いつもはここでどちらかの返事が聞こえてくるのだが、今日に限ってそれがなかった。
それを不思議に思いながらも、コウは少しずつ中に進んだ。
―――ガタンッ―――
「…?奥の…部屋?」
一際大きな物音のした方に、コウは足を運んだ。
「エド…?………っ!?!?な、何これ…っ!!!!」
部屋のドアを開いて、コウはその中を覗いた。
中には二人の姿はあったが、それ以上に不自然な部屋の様子に、コウは言葉を失った。
「なっ………コウ!?来るな!!!!!!!」
「…っ!い…いやぁぁぁああぁ!!!!!」
正体のわからない黒い手に、コウの身体が分解されていく。
いや、どこかに運ばれていく、といった方がいいのだろうか。
コウの存在に気づいたエドが、声を張り上げたが、すでに遅すぎた。
エドもまた、身体を分解され…あの場所へと運ばれていく。
「―――――――…っ」
コウが、次に目を開いたところは、病院のベッドの上だった。
「ここ…?」
「コウ!!気がついたのかい!!」
「………・ピナコ…ばっちゃん?」
ベッドの横には心配そうにコウを覗き込むピナコの顔があった。
「…私…?」
「身体はどこか痛いかい?」
「大丈夫…」
コウは重い身体を起こそうとした。
そして、顔の横に流れたある物を見て、思わず言葉をなくす。
「な…銀?」
それは、コウの髪だった。
コウは元々エドと同じく太陽のような金髪だった。
それが、今では月の光のように銀色の光を放っている。
何度も自分の指をそれに通して、それが自分のものであることを確かめた。
「それについては落ち着いてからでいい。今はゆっくり休みな」
「………エド…ねぇ!!エドとアルは!?二人は!?」
「……………・・二人は、無事だよ。今は…会えないがね」
「無…事…よかった…」
そう言うと、コウは崩れるように再び眠りについた。
「ごめん!!!!!」
「いいよ…今更言っても仕方ないでしょ…。それに…エドとアルの気持ちもわかるから」
「コウ…」
「私だって、自分にその力があれば、絶対やってた。禁忌を犯すことだとわかっていても…止められないもん」
コウは悲しそうな表情で微笑んだ。
「エドは右手と左足。アルは身体かぁ…これから大変だね」
「コウは…?アイツに持っていかれた…だろ?」
「…何だろう…わかんない。とにかく、私には父さんたちを…………っ!?」
「どうした!?」「コウ!?」
「…わからない…あの時、父さんたちは…どうやって殺された…?誰に…」
コウがベッドの上で頭を押さえた。
慌ててエドとアルが駆け寄るが、二人の声はコウには届いていなかった。
「どうして…!?私の…私だけが犯人の顔を見てるはずなのに…!!どうしてわからないの!?」
「コウ…まさか…あの時の記憶が…?」
コウは身体のどの部分も失わなかった。
ただし、コウは記憶を失った。
両親の仇を討つ唯一の、記憶を。
覚えているのは…漆黒。
ただ、それだけ…………・・。