006.微かな笑顔がよけいに苦しい
私が上げたトスを翔陽が打つ。
一般家庭の庭だからネットはないけれど、庭に落ちるボールを見てスパイクがコートに決まる光景が浮かんだ。
トン、と軽やかな着地音。
「もう一本!」
「…うん。いくよ」
何かに追われるような、焦燥感と共に助走する翔陽。
彼の手元へとトスを送る。
ボールが地面へと突き刺さる。
タン、タン、とはねたボールを追い、拾い上げた。
振り向いた先で、翔陽が汗をぬぐう姿が見える。
ここにいない何かを睨みつけるような険しい眼差しに、ゾクリと背筋が逆立つ。
「―――くそっ!」
中学最後の試合から三日。
まだ、彼の中で悔しさが消化されていないのだろう。
できることはやったし、最後まで戦った。
けれど、結果が残せなかったことは事実で。
「あー!!」
大声をあげて空を見上げる。
ググっと伸びをして、一拍。
「ごめんな、付き合わせて!休憩するか」
ちらりとこちらに向けた笑顔が、切なくて。
駆け寄った勢いのまま、彼の頭を引き寄せた。
「受験頑張ろうね」
「…おう」
「烏野、小さな巨人の学校で、今度は翔陽が飛ぶんだよ」
「…そう、だよな」
「大丈夫。中学校の時と同じことにはならない。うちには強い仲間がいるから!」
成績が残せなくても、飛べない烏と言われても。
決して諦めることなく前を向いてきた人たちがいる。
私は確信している―――彼らと一緒なら、翔陽は大丈夫。
「…絶対合格する!」
「うん、待ってるからね」
「そうと決まれば勉強!英語教えてくれ!」
「任せて。準備したらそっちに行くね」
「おう!こっちも準備しとく!!」
私の腕からボールを受けとり家に帰っていく翔陽の背中を見送る。
「…私も頑張ろう」
前を向いた彼に恥じないように。
日向 翔陽/ 狐の嫁入り