001.揺れ動く気持ち
―――会いたい。
―――会っちゃ駄目。
―――会いたい。
―――会っちゃ駄目。
ゆらりゆらりと、自分の想いが揺れ動く。
今この季節は彼という受験生にとっては、大事な時期。
万が一にも彼が失敗してしまうなんてことは、あってはいけない。
彼が“ここ”に来ることだけを夢見て、願って、この一年を耐えてきたのだから。
…とは言え。
「ひと月も会ってない…!せめて電話したい…!」
やり場のない思いと共に抱え込んだクッションに、うー、と唸り声を吸い込ませる。
ポン、と頭にぬくもりが乗った。
「なーに唸ってんだ?」
兄の声だ、と理解すると同時に、甘やかしてくれる掌にぐりぐりと頭を押し付けてしまう。
「ほんと、あいつが関わると精神年齢5歳は下がるなぁ、お前は」
それが面白くて仕方ないと言わんばかりに、くすくすと笑う兄。
「可愛い俺の子猫ちゃん。外に客だぞ?」
「!?」
この状態の私に、兄が運んでくる話題の主なんて、一人しかいない。
バッと勢いよく身体を起こして兄を見る。
いつの間にかソファーの隣に座っていたらしい兄は、乱れているであろう髪を優しく梳いた。
「我慢できないのはお前だけじゃないらしいな?」
ポン、と肩を叩かれ、温かい体温に送り出される。
さっきまでの葛藤なんて嘘みたいに、自然に足が動き出した。
足早に向かう、住み慣れた我が家の玄関。
鍵のかかっていない玄関ドアを押し開き、薄暗くなり始めた世界の中に私のオレンジを見つけた。
「我慢できなくて会いに来た!」
太陽が、笑う。
日向 翔陽/ 狐の嫁入り