089.夜の帳と幕間

喫茶店と銘打っているのに、この店の閉店時間には大いに問題がある、と声を大にしたい。

「まぁ、お客さんも来るし、お酒もあるし…仕方ないんだろうけど」

何も、こんな時間に買い物に出さなくても。
自分自身を励ますようにそう呟いたところで、お約束のように感じた嫌な予感。
第六感が優れているというわけではないから気のせいかもしれない。
けれど、笑い飛ばすにはどうにも現実染みた恐怖感と、背筋が凍るような寒気。
一番近いお店が気まぐれに24時間営業なんかにした所為だ!と恨み言を一つ。

これが昼間であったなら、いくら裏路地とはいえ少しくらいは明るさもある。
けれど、今の時間はすでに夜も更けて日付も変わった頃だ。
指先が冷たくなる恐怖に、いつの間にか足は止まってしまっていた。
一分一秒が、とてつもなく長い時間に感じる。

「ねぇ」
「き―――」

叫び声になるはずの声は、相手の手の平に抑え込まれた。
顎が潰れる!と感じるほどの強い力に、思わずその腕をバンバンと叩く。
それによって気付いたのか、外すタイミングだったのか。
離れていく腕を追うようにして、勢いよく振り向いた。

「急に声をかけないでください!!」
「叫ぶと煩いよ」
「誰が叫ばせていると…」

思ってるんですか、と言う言葉を飲み込んだ。
―――自分の常識がこの人の常識ではない。
自分自身に言い聞かせるようにして、三度心の中でそう唱える。
そうして、止めていた足を動かして目的地へと歩き出す。

「そっち」
「はい?」
「通らない方がいいよ」
「でも、お店にはこの道が近いんですけど…」
「こっちからの方が近いから」

そういって腕を引かれてしまえば、そちらに歩く以外の選択肢は消え失せる。
溜め息ひとつで諦められる程度には、この人の行動にも慣れてしまった。

「ただいま帰りました」
「おう、ご苦労さん。悪かったな。もう今日は上がっていいぞー。コーヒー飲むか?」
「あ、いただきます。服だけ着替えてきますね」




「イルミ坊、よく来たな」
「…こんな時間に出さない方がいいんじゃない?ここ、治安良くないし」
「あいつなら大丈夫だろ」
「追われてたみたいだったけど」
「そうか、ありがとうな」
「何のお礼?」
「そりゃ、お前さんがあいつを助けてくれたんだろう?」
「…助けたつもりなんてないけど?」
「まぁ、今はそれでもいいさ」

「何の話ですか?」
「いや、こっちの話だ。ほれ、コーヒー」
「ありがとうございます」



「ねぇ」
「はい?」
「護身術くらい覚えたら?」
「んーと…必要だと思わないんですけど」
「ハンター試験に何の準備もなく行くつもり?」
「はい、落ちる気満々なので」
「………」
「ちょ、イルミさん。空気が重い!大体、今からやったっていくらも覚えられないですよ」
「教える」
「イルミさんが!?(キルアの二の舞!?)」
「怪我、してほしくないから」
「――、――」
「………?」
「か…考えておきます」




「思うんだが、あの子は押しに弱いな」
「なんだかんだで流されて仲良くなってることに気付いてないからな」
「元々いい子なんだよ、あの子は」
「そりゃ、この店のアイドルだからな。店長、もう1杯」
「帰るんじゃなかったのか?」
「いやいや、ちょっとした急展開になりそうだからな、ちゃんと見守らねぇと」
「いや、今日はまだその時じゃねぇな」
「…賭けるか?」
「よし、乗った!」

イルミ=ゾルディック

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15.01.18