087.霧の森を抜けて

「まったくもう!本を読んでたはずなのに、どこなのよ、ここは!」

憤るのも無理はない。
天気が良かったからと、ピクニック気分で本を持ち出し、のんびりと公園で読んでいたその時。
何の前触れもなく突然、身体が未知なる煙に包まれたかと思えば、次に来たのは見えない何かに引っ張られる感覚。
確かに読んでいた本はファンタジーで、その本の中ならばこんな展開もあり得るだろう。
しかし、彼女が生きているのは風以外の見えない何かに引っ張られるなんてあるはずもない現実で。

「霧の奥には古びた洋館―――とかだったら、正しく本の世界だわ」

自分の身に何かが起こった時には、その場を動かない方が良い。
恐らくはその判断が正しいとはわかっていても、動かずにいられるのはごくごく一部の人間だろう。
霧の深い森の中に放り出され、目の前にはどこかへ続く道があるのだとすれば、それも無理はない。
整備された道を歩く事、ほんの数分。

さきほど呟いた言葉通りではないにせよ、日本ではそうお目にかかる事はないだろう立派な洋館が見えてきた。
嘘でしょー…と呟いた彼女の頭上で、ガサリと木の葉が揺れる。

「やっと帰って―――お前…!?」

葉を落としながら目の前に落ちてきた男に、きょとんと瞬きをした。
不思議と、危機感は抱かない。
自分が驚いている以上に、男の方が驚きの表情を浮かべていたからかもしれない。

「…10年バズーカか?」
「はい?」
「そう言えば、雷のガキがどうのこうのって言ってたか…」
「一人で完結されても困るんだけど」
「おい!ここに来てどのくらい経つ!?」
「聞いてないし。………4、5分くらいだと思うわ」
「なら、そろそろか」

本当に一人で完結してしまったらしい男と彼女の間に、沈黙が下りる。
ふと、男を見上げた彼女は、日本人としてはまずあり得ないであろうその滑らかな銀髪に目を奪われた。

「…綺麗ね」
「…っ」

どこかに視線を向けていた彼の目が、今一度驚愕と共に彼女の姿を映す。
と同時に、再び目の前が煙に包まれ、身体が何かに引っ張られた。
数秒後には元いた公園からは少しだけ離れた家の近所へと放り出される。

「………不思議な体験、って事でいいのかしら」

深く考えても仕方がないから、と全てを放棄し、白昼夢だと思って忘れてしまう事にした。





「…お迎え?ありがとう」
「………変わらねぇな、お前は」
「どうしたの、顔を赤くして。未来の私に口説かれた?」
「未来じゃなくて過去のお前だったぞ」
「あら、このバズーカ、故障していたらしいから…その所為かしら。道理で見覚えのある公園だと思ったのよね。…ところで、ランボは?」
「俺が知るわけねぇだろうが!」

スペルビ・スクアーロ / 山本くんのお姉さんシリーズ

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14.05.06