086.永遠への誘惑

「まぁ、よく聞く話ではあるわね」

ソファーにゆったりと腰掛け、興味なさ気に肩を竦めて見せた。

「でも、どうして不老不死の話なんて?
あなたは、そう言う永遠なんてものには興味なさそうだと思っていたんだけれど」
「永遠を得たいとは思わない。だが、面白い話を耳にしたからな」

そう言って隣へと腰掛けてくる男の重みで、スプリングがギシリと悲鳴を上げる。

「この15年、まったく姿形を変えていない情報屋がいるらしいな」
「………」
「それだけならば念か何かで若作りしていると考えるのが妥当だが…」

楽しげな笑みを変えず、伸ばした彼の手が剥き出しの太腿を撫でていく。
脚に何かを纏うのは慣れていない―――けれど、今ばかりはこの服をチョイスした自分を恨んだ。

「その情報屋は酷く水を嫌うらしい。いや、この表現は正しくないか」

―――水が、足に触れるのを嫌うらしい。

耳元で囁くような低音で発せられた言葉にも、眉一つ動かさない。
彼とのやり取りの中で、ポーカーフェイスは嫌と言う程身に付いた。
そんな私を見つめ、彼は太腿から離した手を頬へと運ぶ。
目元にかかる髪をさらりと撫でる手は、どこまでも優しい。
そして、手慣れていると言わざるを得ない。

「海の色を宿したアクアブルー。お前の眼はいつ見ても美しいな」
「どうもありがとう。ところで、話はこれで終わりかしら?なら―――」

パチン、と彼が指を鳴らす。
それに対して何故と問う間もなく、二人の頭上に生まれたバケツ一杯ほどの水。
重力に従ったそれが向かう先は、一つだ。





「結局のところ、確信を持っていたわけよね」
「まぁな。伊達に本を読み漁っていない」

ご丁寧にも大きなバスタオルを3枚ほど用意してくれていた彼からそれを受け取り、たっぷりと水気を含んだ髪を拭う。

「…ソファーには似合わない光景だな」
「見えないように体の向こうでスキルハンターを使ってこの状況を生み出した人が言う事じゃないわ」
「呼吸は出来るのか」
「突然エラ呼吸になるなら、陸地に上がろうなんて言う人魚はいないわ」
「ところで、あの話は本当なのか?」
「人魚の肉で不老不死、って?」

確認するまでもない。
答えを求める彼に、溜め息を一つ。

「そもそも、私たちは不老不死じゃないわよ」
「そうなのか」
「姿を変えていないのは、情報屋が子どもだってバカにされないように姿を変えていただけ。
その上で試したいと言うなら―――指1本くらいなら、差し上げても構わないわよ?」

にこりと微笑めば、彼は否、と返した。
やはり、永遠の命への興味は薄いようだ。

「人魚の肉を食った人間で生きている者はいないらしいな」
「あら、知っていたの。残念ね」
「…お前は俺が嫌いなのか」
「良いお客様だとは思っているわよ」
「なるほど、人魚も中々性格が曲がっているらしいな」
「世間の荒波に揉まれれば誰でもこうなるわ。純真な人魚をお求めなら、おとぎ話の世界へどうぞ?」

クロロ=ルシルフル

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14.03.02