084.側に居るのに
「キキ知らんかー?お菓子やる約束やのに、どこに―――」
中途半端に途切れた言葉の主の視線の先。
目当ての彼女の姿を見つけ、彼はやっぱりここか、と納得する。
「ホンマに…食っとるか寝とるかやな」
苦笑する視線の先で、鷹の膝を借りてすやすやと眠る彼女。
休憩に入ると、こうして膝を貸して読書をする鷹の姿は、彼女が来ている時にはよくよく見られる光景だ。
普通は逆だと思うけれど、鷹が膝枕で眠る姿は想像できない。
なので、この二人はこれでいいのだろう。
「よう寝るなぁ…鷹、こんなに寝てたら、つまらんやろ」
「…別に」
先輩たちが集まってしまえば、読書を続ける事は難しい。
本に付箋をして、顔を上げたところでどこからともなく「はい、嘘!」と声が上がる。
「ぜってー嘘!起きてりゃめっちゃ可愛いのに、寝てばっかりで満足できるわけねぇ!」
ビシィッと指差され、改めて彼女を見下ろす鷹。
これだけ賑やかだと言うのに、起きる気配もなく穏やかに眠り続けている。
「寝てても可愛い。静かで読書が捗る」
(((…鷹が惚気た…)))
「…鷹くん、もうすぐ休憩終わるみたいやけど…」
「ああ、そうだね」
思い出したように校舎にかかっている時計を見上げる。
それから、膝の上で眠る彼女の髪をさらりと撫で、静かにその名前を呼んだ。
小さな身じろぎ一つの後、ゆっくりと開かれる目。
「ごめん、休憩終わるから」
その言葉を聞いて身体を起こした彼女は、ふぁ、と欠伸をしてから伸びをする。
猫のようだ―――誰もが、そう思った。
「んーん。ありがとうね、頑張って」
応援してるーと笑う彼女は、確かに可愛い。
独り身にその笑顔が沁みる。
「ちくしょー!!」
誰かが、走り去った。
本庄鷹 / チューリップ