083.愛を囁く駒鳥

「紅、時間だよ」

にこりと笑う彼に、口元を引き攣らせる私。
仕方ない事、仕方ない事だ―――!そう言い聞かせ、笑顔を作る。

「…好きだよ、猛」
「紅!?」

ぎょっとした表情で「どないしたん!?」と慌てる花梨。
自分のキャラじゃない事は百も承知だ。
言わなくていい道があるなら、私だってそうする。
けれど、これは仕方ない事。

「熱でもあるん…?」
「はは!変な事を言うね、花梨は。紅はいたって健康体だよ!」

満面の笑顔でそう言う彼。
既に慣れつつある羞恥心を隠し、溜め息を吐く私。

「賭けにね…負けたの」
「ああ…ご愁傷様…」

それだけで何かを察してくれたらしい花梨が、そっと目尻を拭った。
普段の彼女の苦労に比べれば、こんな事はまだマシだ。
そうでも思わなければ、やっていられない。

「でも、大和くん…それでええの?」
「こんな事でもなければ紅は素直になれないからね!」

暗に、私が棒読みで愛を囁く事を指しているのだが、本人は全く気にしていないらしい。
あぁ、そう…慣れている花梨も、早々に諦めたようだ。

「大和ー!!」
「ああ、すぐ行くよ!…ちょっと行ってくるね」
「行ってらっしゃい」

廊下から呼ばれた彼を見送る笑顔は本物だ。
二人になった途端に、花梨が内緒話をするように顔を寄せてきた。

「大変そうやね」
「まぁ、負けたものは仕方ないのよ。確かに、こんな事でもなければ言う機会なんてないわけだし」
「た、確かに」
「それに…何度言っても嬉しそうだから…この羞恥心さえ耐えれば、どうにかなるわ」

そう答えて、先ほどの彼の言葉を思い返す。

―――こんな事でもなければ紅は素直になれないからね!

お互いが家に帰るまで、あと6時間と少し。
普段は口にできない言葉を、負けを理由に囁き続けるのも、悪くはないのかもしれないと思っていた。

大和 猛 / ガーベラ

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13.07.30