081.運命と名付けるなら

「不二不二!」

パタパタと軽やかな足取りで机の間をすり抜け、不二の元へと辿り着く彼女。
自分の席が彼の隣だから、彼に声をかけたのは席に戻るついでと言う意味もある。

「どうしたの?」
「今ね、すっごくイイ子と会ったの!」

後輩!と楽しげに語る彼女を見て、少し面白くない気持ちを表情の裏に隠して、そう、と頷く。
彼女はそんな不二の様子に気付く様子もなく彼の隣の自分の席に腰を落ち着け、どうしよう、と両手で頬を挟む。
上気した頬が、その興奮を物語っていた。

「すごくイイ子だった。運命感じちゃった!」

その場の空気が、ピシリと凍りつく。
気付かないのは彼女本人だけで、クラスメイトは心なしか二人の席から遠ざかり始めている。

「………具体的に、どういう感じで?」
「さっき、社会の地図教材を運んでったのよ。アレ、結構重くってさ」
「…だから手伝うよって言ったのに」
「でね、廊下の途中で出会った子が、危なっかしいから運びますって手伝ってくれたの!」


「あの…」
「うん?」
「見てて危なっかしいんで、運びます」
「え、ああ…大丈夫だよ、ありがとう」
「女の人にそんな重そうなもの運ばせてるわけにいかないんで。姉貴に怒られます」



「―――って感じ!」
「…へぇ。…どんな子だった?」
「ツンとした生意気そうな子。あ、そう言えば不二の髪色、あの子とよく似てるかも」

おい、誰か言えよ。
いやだよ、言えないって。
無理無理。

教室の端っこでは、クラスメイトが彼女を止める役目を押し付け合っている。

「はぁ…ああ言う弟が欲しいなー」
「…弟…?」

言葉の意味を確認するかのように首を傾げたのは、不二だけではなかった。
きょとんとした様子で視線を向けた彼女は、当然のように笑う。

「うん、弟。あんな弟がいたら、すごく可愛がっちゃうと思うの」
「…そっか、君は末っ子だっけ?」
「そうそう。今更、弟が欲しいなんて強請れないし…小学生ならまだしも、ねぇ」

食卓の場の空気が微妙なものになる事は間違いない。
そう言う空気を読めるなら、今の教室の空気も察してくれ!と思うけれど、言えないのが社会と言うものだ。

「可愛かったなー…ゆうたくん」
「…“ゆうた”って言うの?その後輩」
「友達に呼ばれてたから、たぶんね」
「………ふぅん、裕太、ね」

何かを察した様子の不二を見て、首を傾げるのは紅の番だった。
彼はにこりと笑みを深める。

「その夢、叶うかもしれないね」
「夢って…弟にしたいって?」
「うん」
「…どういう意味―――って、やめとく。あんたのその企んだ顔を見たら、嫌な予感しかしないから」
「失礼だな。こんなに親身になってるのに」
「親身って…」

ここで、会話を途切れさせるかのようにチャイムが鳴り響く。
午後の授業の始まりの音により、彼女は肩を竦めた。
一頻話してしまえば、興奮も落ち着いたようだ。

「とりあえず…帰ったら聞いてみないと、ね」

実に楽しげに呟かれた不二の声は、彼女の耳には届かなかったようだ。

不二 周助

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12.03.25