074.暗号解読
何だかよくわからないけれど、この世界の召喚されて一週間。
バイト掛け持ち経験が役に立って、知る人ぞ知る、と言った小さな喫茶店で住み込みとして働いている。
文字が読めないとか、英語がないとかどこの世界だよ!と思ったら、友人が好きだった漫画の世界でした。
道理で何となく見覚えのある文字―――それを理解すると同時に、私は一つの誓いを立てた。
「漫画のキャラと知り合わない!絶対に!!」
会話細部まで記憶しているわけではないけれど、バトルがメインだということは理解している。
そんなキャラと関わったら、命がいくつあっても足りない。
それに気付いた時、私は、このまま小さな喫茶店でコツコツと金を溜め、どこか田舎で静かに暮らそうと決意した。
何が困るって、文字が読めないのが一番困る。
喫茶店のメニューだけは一番に覚えたけれど、それ以外は危うい事この上ない。
店長には正直に話しておいたけれど、彼は深くは追及せず「ゆっくり覚えろ」と言ってくれた。
そんな私に―――
「手紙はないわー…」
形を崩さず、丁寧に書かれた文字なら、時間をかければ読めない事もない。
だが、書き手の癖が大いに繁栄された文字は、そもそも読める気がしない。
手の中にあるカードを片手に、賄の昼食を食べる。
「どうしたんだ?」
「これ、読めなくて。さっきレジで渡されたんですけど…」
暗号解読なんです、と言うと、店長は笑って「読んでやろうか?」と聞いてくれた。
渡してくれた相手が緊張していたり、顔を赤くしていたり…そう言う類の反応を見せていたら、頼まなかっただろう。
もし仮にラブレターだったとして、店長に読み上げられた日には恥ずかしさで穴を掘りたくなる。
けれど、相手にそう言った様子はなく、寧ろ淡々と業務連絡のように「ん」とそれを差し出してきた。
少しだけ悩み、店長にそれを渡す。
それにざっと目を通したらしい店長の眉間に深いしわが刻まれた。
「お前、これ…どうするんだ?」
「どうもこうも、読めないんですってば」
「お誘いだぞ」
「え?そう言う内容だったんですか?あの無表情だから絶対違うと思ったのに」
「アイツはいつでもあんな感じだろ。つーか、アイツが誰だか知ってんのか?」
「いいえ」
「…ここにある文字、読めるか?」
「…もうちょっと、癖が弱ければ読めそうなんですけど…ここ、あの人の名前ですか?」
「“イルミ=ゾルディック”」
サンドイッチがそっくりそのまま出てくるかと思った。
「えっと…内容は、聞きたくないです。うっかり失くしちゃった事にしてOKですよね」
「ああ、そうしたいなら好きにしろ。どの道、明日の朝に迎えに来るらしいから意味はないけどな」
「お伺いなしに行動報告だけ書いてあるんですか!?」
どんだけ自己中!?と思うけれど、本人を前にしたら絶対に言えない。
「それにしても…アイツがこんな内容を書くんだなぁ…」
「ちょ…何か、聞きたいけど聞くの怖いです。何ですか、それ」
「いや…うん。アイツがガキの頃から知ってるだけに、感慨深いっつーか…読んでやろうか?
良かったなぁ。気に入ったらしいぞ、お前の―――」
「頑張って自力で解読します!」
「そーか。頑張れ」
気の抜けた励ましと共に、カードを受け取る。
読める文字は少ないけれど、頑張ればきっとできる。
人の口からきくなんて冗談じゃないと、残りの昼休みで出来る所まで解読すべく、ペンを取った。
「気に入ったって、コーヒー!?店長ー!?!?」
イルミ=ゾルディック