072.定位置
トレードマークの帽子をかぶっているから、ジャケットにフードは必要ない。
それなのに、あえてフードのあるジャケットを選んでいるのは、そこが彼女の定位置だからだ。
もぞり―――フードが動き、白いファーの中から黒い頭が顔を覗かせる。
「寒くないか?」
「大丈夫」
あったかいよ、と少し伸びてきて、首筋に擦り寄る彼女。
先ほどまでフードの中でぬくぬくとしていたお蔭なのか、黒い毛並は体温を含んでほっこり温かい。
しかし、外気に触れた彼女の方は寒かったのか、ぶるりと身体を震わせ、いそいそとフードの中に戻っていく。
フードに猫一匹分の重みが加わると、首やら肩やらが凝る上に、重心が後ろになってしまってバランスが悪い。
だが、ここ数日でそんな状況にも、慣れた。
―――寒い。
―――毛皮着てるのに寒いのか。
―――寒いよ!めちゃくちゃ寒い!触って、この手の温度!凍っちゃう!!
必死の様子でぴたりと当ててきた肉球は、確かに冷たかった。
あまりにも切羽詰まった様子に、仕方なくタンスの奥から引っ張り出したフードつきのジャケット。
そこがあたたかいと知ってから、彼女の第二の定位置が決まった。
「人の姿に戻って厚着すればいいだろ」
「駄目。人の身体は毛皮がないから余計に寒いの」
耐えられない、と首を振る気配。
このまま冬島で生活をしたら、彼女は人である事を放棄しそうな勢いだ。
この所、人の姿の彼女を見ていないから―――何となく、何かが足りない気がする。
(…ログが溜まったらさっさと出るか)
彼女の重みで絞まりそうになる首元を整えつつ、そんな事を考えた。
トラファルガー・ロー / Black Cat