065.手の甲にキス
ダンスパーティーは初めてではない。
別に自慢するわけではないけれど、実家は城と言っても差し障りないので、当然だ。
呼吸と同じような自然さで、差し出された腕に手を絡める。
二人の距離を保つのも、歩調を合わせるのもお手の物。
練習したわけでもないのに、ごくごく自然にできてしまう事に驚く。
そんな事を考えながら顔を上げると、こちらを見ているディーノくんと視線が絡んだ。
目と目を合わせて数秒、お互い、はにかむように笑う。
「たぶん、同じ事を考えてるな」
「…はい、そんな気がしますね」
まるで、秘密を共有するように、クスクスと笑う。
広いフロアには人が溢れているけれど、当然の事ながら歩けないほどの人数ではない。
煌びやかな雰囲気と音楽は、どこか日常とは隔絶された空間のような錯覚を抱かせた。
「…あ」
音楽が変わり、人々が反応する。
穏やかなダンス曲が流れだすと、誰ともなくパートナーを連れ立ってフロアの中心部へと向かう。
二人もまた、顔を見合わせた。
どちらともなく腕を離し、向かい合う。
「―――踊っていただけますか?」
尋ねる必要なんてないのに、ディーノは優しい笑顔で問う。
喜んで―――笑顔を返し、彼の手を取った。
「ダンスは慣れましたか?」
「そうだな。お前に恥をかかせない程度には」
軽やかにステップを踏み出し、音楽に合わせて踊り出す。
ディーノは昔、ダンスが苦手だった。
彼女の育ちが城でなければ、覚えなかったかもしれない。
恥をかかせないようにと一生懸命練習してくれた姿を知っている。
だからこそ、その成長ぶりを自らの事のように喜んだ。
「あ」
「どうした?」
「あの人…」
「…ああ、挨拶しとかねぇとな」
彼女の視線の先を辿り、納得する。
そこにはつい先日、食事を共にしたファミリーのボスがいた。
寸分の狂いも迷いもなくステップを踏んでいるのに不安定さはなく、周囲に視線を向ける余裕すら持っている彼女に、俺はまだまだだな、と心中で苦笑。
丁度良く曲が終わったところで、支えていた彼女の手を高く持ち上げる。
首を傾げる彼女の目を見ながら、手の甲にそっと口付けを落とした。
「…俺も頑張るから」
「何の事かはわかりませんけれど…努力は素敵な事だと思います」
頑張って、と彼女からのエールを貰った。
ディーノ / 獄寺くんのお姉さんシリーズ