063.囁かれる噂

俺と並ぶくらいに甘いもの好きってのは嘘。
―――アイツは、料理部の部長をしているのに、実は甘いものが苦手だ。

頼ってきた相手を拒まないのは本当。
―――だから、一般生徒が参加できる日の料理部は、予約が要るらしい。

母親がめちゃくちゃ料理が上手くて、アイツが上手いのはその影響ってのは嘘。
―――「得手不得手があるんだよ」って苦笑したアイツの顔は、今でも覚えてる。

告白したのが俺で、アプローチをかけ始めたのも俺ってのは本当。
―――胃袋をガッツリ掴まれた感じだな、うん。

そんなあてにならない噂話に左右されながら、今日も今日とて、日常生活を送る。


ちなみに、アイツのお菓子が美味いから俺が太って来たってのも嘘だ!
―――何たって、俺が太らないようにカロリー計算された俺仕様のお菓子なんだからな!





「お疲れ様ー」

部活終了後、既に着替えを終えて帰ろうかと言う頃になって、彼女が姿を見せた。
このタイミングで彼女が顔を出す理由は一つ。
思い当る人物が、一番に動き出す。

「はい、これ来週のメニュー予定。天候で変わるけど」
「いつもありがとう、幸村くん。あと、カロリー計算もありがとうね、柳くん」

お世話になってます、と二人に頭を下げ、メニュー表を受け取る。
そこには一週間分のメニューが書かれていて、消費カロリーもきっちりと計算されている。
まったく、ありがたい事だ。

そこで、用意を終えたブン太がテニスバッグを肩に担いで彼女の元へと走ってきた。

「悪い、待たせた!」
「ううん、大丈夫。…来週、ハードだね」
「練習試合を控えてるからな」
「この分だと、ケーキとかでもいけそうな感じか…」
「マジ!?」
「うん、大丈夫だと思う。ちゃんと計算してからね」
「よっし!楽しみにしとくからな!じゃあ、お先~」
「お疲れ様」

並んで歩いていく二人は、時折顔を突き合わせるようにして何かを話しこんでいる。
話が尽きる事はないのか、背中を見ているだけでもその盛り上がり具合がよくわかった。

「相変わらず仲良いッスよね」
「始めは続かん言われとったぜよ」
「あの二人が!?」
「二人の仲を妬んだ噂ですよ」
「つーか、あの噂って一週間ぐらいで消えたよな」
「そりゃそうじゃろ。丸井が他の女から差し入れを受け取らんようになったからな」
「…今って普通に受け取ってますよね」
「彼女が受け取ってもらえなかったら悲しいからと、受け取るように言ったらしいな」
「それから、文化祭で料理部が喫茶店を開いて…」
「そこからはとんとん拍子だったなー」
「あの腕に勝てるある女子はおらん」
「先輩の腕はプロ並みッスよね!」
「で、教えてほしいって子が増えるようになって、妬みとかもなくなったんだったね」
「彼女の見事な所は、自分の長所と特技を活かす場所を心得ている所だな」
「何にせよ、彼女のお蔭で丸井が丸くならずに済んでるから…助かってるよ」

最後を締める爽やかな笑顔に、思わず苦笑を浮かべる部員たち。
そして、帰ろうか、と誰ともなくバッグを持ち上げた。

「クシュンッ!!」
「ブン太、風邪?」
「いや…誰かが噂してる!」
「どっちでもいいけど…カイロ、使ったら?」
「おう、サンキュ」

丸井 ブン太 / スイートピー

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12.01.23