062.どんな宝石よりも

クルタの氷宝以上に入手が困難だった宝もある。
けれど、その内のどれよりも―――心臓が、震えた。
氷の造形物のような美しさの中で際立つ緋の眼。
その緋に射抜かれた瞬間、未だかつて感じた事のない感覚を抱いた。

生を失った、曇った眼を知っている。
だからこそ、彼女は生かすべきだと思った。
彼女の眼は、そこに自身の感情を色濃く映し出す。
憎悪に染まるその眼差しに射抜かれ、背筋が粟立った。

―――堕ちる、な。

何かが始まる音を聞いて、そう確信した。





「あなたは強要しないのね」

彼女が蜘蛛に囚われ、一年以上過ぎた頃。
不意に零したその言葉の真意が、クロロには理解できなかった。
意味を問う、無言の視線。

「クロロが私に緋の眼を求めたのは、初めだけだったから―――」
「ああ、そう言う事か」

自身の価値がそこにあると、彼女は自らの立場を正しく理解しているのだろう。
確かに、その考えに間違いはない。
少なくとも、彼女がアイス・ドールだった事から、全てが始まった。

「写真だけでも相当な高値がつくんでしょう?」
「俺の許可なく撮らせるなよ」
「…彼らはしないわ」

クロロに睨まれるとわかっていて、馬鹿をするような人間は蜘蛛にはいない。
肩を竦める彼女に、彼は満足げに頷く。
そして、「強要しない理由…か」と呟いた。

「必要ないからな」
「…変な人」
「今の俺は、お前の価値が緋の眼だとは思っていない」

そう告げると、彼女は不思議そうに首を傾げる。
あとは自分で考えろ、と笑みを残し、彼の意識は活字へと戻ってしまった。

彼女がその意味に気付くかどうかは、クロロにとってはそれほど大きな問題ではない。
重要なのは、彼女がここに居る現実だけだ。

クロロ=ルシルフル / Ice doll

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12.01.18