061.砂時計
カタン、と砂時計をひっくり返す。
音もなく下へ下へと落ちていく白い砂。
ガラスの中の不変の世界に、飽く事無く視線を向ける彼女。
かなりの時間をそうしているらしい彼女に、放置していた藍染が口を開いた。
「戻ってきてもそうしているとは思わなかったな」
それほど好きかい?と問われ、彼女は気怠く視線を向ける。
「物好きだと思う?」
「どこにそれほどの魅力があるのかは気になる所だ」
「…同じだなと思って」
誰と、と言葉にしなくても、彼は隠された意味に気付く。
「箱庭の中で、ただ同じ事を繰り返す事が?」
「…あなたにはそう見える?」
最後の一粒が音もなく砂山へと落ちた。
それを見届け、彼女はもう一度砂時計をさかさまにする。
「変わる事のない世界で、ただただ同じ時を刻む―――それしか出来ない。
でも―――それだけは出来る」
感情を持ち、生きる中。
自らの立ち位置は、時と共に様々に移り変わるもの。
不変を貫く事ほど、難しい事はない。
「箱庭であろうとなんだろうと、構わないの。私は、自ら望んでこの世界に生きているから」
何物にも染まらぬ白い部屋、作られた空。
虚夜宮もまた、彼女にとって箱庭に変わりはない。
そんな世界に引き込んだと言うのに、彼女は藍染を拒まない。
それなのに、時折、彼の遥か先を見つめる様な目を見せる。
一番近いはずなのに、実は一番遠いのかもしれないと錯覚する。
「…君は、時折そうして…私の理解を越える」
「女性の心を悟ろうなんて、愚かで無駄な事よ?全てを知るのは、自分だけ」
彼女はただ、静かに笑う。
藍染 惣右介 / 逃げ水