057.夢見る子猫
「おい、エース」
後ろからエースを呼ぶ声が聞こえた。
振り向かずに歩いていると、隣に並ぶ仲間の一人。
「アイツ、どうしたんだ?今日はやけに落ち込んで―――って、お前もどうした!?」
赤髪みたいになってんぞ!と言いながらも、たぶん彼はその理由がわかっている。
―――あー、なるほど。だからアイツがあんなに落ち込んでんだな。
エースの顔にできた四本傷を見れば、自ずと紐解かれる理由。
「しかし…どうした?」
「…夢見が悪かったんだと」
はぁ、と溜め息をつくエース。
傷は痛むけれど、慣れているので別に怒っているわけではない。
それに、彼女は起きるなり額が擦りむけそうなほど謝ってくれた。
だから、彼女には怒っていない。
やや不機嫌な理由は―――
「お、何だ、エース。赤髪の真似事か?」
これだ。
偶々同じ場所にできた傷は、嫌でも三本傷をトレードマークにしているシャンクスを思い出させるらしい。
起きてから何度、その言葉を聞いただろうか。
「エース…そんな所を真似なくても、アイツは十分お前の事が好きだぞ?」
こんな事を言う奴までいる。
もちろん、ふざけているわけではなく、真剣に。
果てには否定するのも面倒になって、言いたい奴には好きに言わせておけ、と言う態度になった。
そんなエースの元に、彼女がやってくる。
「…ごめんね?痛い?」
猫ではない彼女が、ぬくもりのある手をそっと、エースの目元に伸ばす。
触れた指先が、労わるように傷の傍を撫でた。
心底、申し訳ないと思っているらしい彼女に、エースの不機嫌はどこかへ飛んでいく。
大きな手を彼女の頭に乗せ、自分と同じ黒髪をガシガシと撫でた。
「気にすんなって言っただろ」
「…うん。………ごめんね」
本当に気にしていないのに、彼女の表情は優れない。
その内自分で浮上してくるだろうから、これ以上は何も言わない事にした。
エースが彼女を怒らないのには、もう一つ理由がある。
それは、彼女がその鋭い爪を振るった時、切実な声で自分の名を叫んだからだ。
彼女は、夢の中でも自分の敵と戦ってくれていたのだろう。
「…ありがとな」
「何?聞こえなかった」
「いや、何も」
ポートガス・D・エース / Black Cat