056.水しぶきの向こうで
敗北、目の前の現実。
ついこの間までは普通の一般人だった若者に敗けた、自分。
生に対する執着はない。
それどころか、不思議な高揚感に口角が上がるのを自覚した。
磨けば光る逸材―――その行く末を見届けられないのは残念だが、これはこれでいいのかもしれない。
水に濡れ、重量を増した着衣が、尽きようとしている体力を容赦なく奪う。
獰猛な鮫が解放されたと知りながら、自分をも救おうとする山本に、甘いと怒鳴る気力は既にない。
足元が崩れ、それでも諦めようとしない山本を別の足場へと蹴り飛ばす。
今しもその牙を突き立てようとする捕食者の向こう。
水飛沫の合間に見えた山本の目が、彼女のものと重なった。
「――― 」
マイクは、呟いた最期の言葉を拾わない。
スペルビ・スクアーロ / 山本くんのお姉さんシリーズ