054.わがままドール
驚くようなスピードで近付いてくるキルアの気配。
あぁ、またか。
そんな事を考えながら、もう間もなく開かれるであろうドアを見つめる。
彼女の視線を受けたドアは、きっかり3秒後―――バァン、と吹き飛ばされた。
どう言う構造になっているのか、1tあるらしいドアが、木の葉のように飛んで、壁にめり込む。
「…キルア」
「あ、ごめん」
力加減を間違えた、と恍ける彼だが、その姿を見た彼女の目は大きく見開かれた。
「また…随分と可愛らしい格好ね」
「そうだよ!聞いてよ、姉貴!!兄貴が俺を売った!!」
「母さんの着せ替え人形にされたのね、ご愁傷様」
上手く躱せないキルアもキルアだとは思うけれど…その言葉を飲み込み、改めて彼を見る。
ふんわりとしたスカートに身を包み、肩を怒らせる様子は何と言うか…可愛い。
この年頃の子どもは、性別が曖昧に見えるからあまり違和感がなかった。
…なんて事を口にすれば、キルアが喚くのはわかっているので、何も言わないけれど。
「で、今回は何がご褒美なの?」
「新作お菓子3ヶ月」
「…交渉が成立しているなら、文句は言えないわね」
キルアが素直に服を着ないとわかっているから、母親もご褒美と言ってキルアの好きなものを買い与えては着せ替え人形にして楽しむ。
お互いの利害が一致しているならいいじゃないか、と思うが、そうじゃないんだと言うのが彼の意見。
「こんな女物のひらひらばっかり着せるんだぜ!?普通の奴ならいいってのに!」
「いや、母さんの趣味はそうだからね。いい加減学習しなさいね、キルアも」
普通の男の子の服を着せて喜ぶはずがない。
生まれた時から一緒にいるのに、何度こうやって文句を言えばわかるんだろう。
変わらない弟に、小さく苦笑を浮かべた。
「いつものタンスにキルアの服が入ってるから、好きに着替えなさい」
「うん。そーする」
「まったく…文句を言う前に自室に戻って着替えてくればいいのに」
どうせ、文句の一つも言いたくて、でもご褒美をもらっているので母には言えなくて。
どこか、聞いてくれる人の所に行きたくて、結果として彼女の所に逃げてくるのだ。
「あ、これ新しい?」
「ええ、この間のお気に入りは修行で駄目にしていたから。前のと同じような感じにしておいたけど」
「姉貴って趣味いいよなー…。俺、姉貴の選んだ服ならどんだけでも着替えるんだけど」
「ありがと。そろそろ自室の服も買い足したい?」
「うん!買っといて!!」
「はいはい。月末までに届くように探しておくわ」
「姉貴って…あれ。服を色々選ぶ仕事とかもできそう」
「スタイリスト?まぁ、やってやれない事はないわね」
「兄貴の服も姉貴が選べば?」
「…選んだものもあるのよ。何故か、滅多に着てくれないけど」
「………そっか(たぶん、姉貴が選んだから、だよなぁ…)」
「見た目が良い人を着飾るのって楽しいのよね」
「で、何でヒソカを選んだのかしら、私…」
「人の顔を見て溜め息なんて…失礼だね」
「うん。そのペイント、やめない?」
「似合わないかい?」
「…似合うから嫌なのよね、もう…何でこんな変な趣味なのかしら、イルミと言い、ヒソカと言い…素材は良いのに…」
キルア=ゾルディック / Carpe diem