049.じゃんけんして決めよう
テレビの中で、子どもたちが元気にじゃんけんをしていた。
何かを決めるためのじゃんけんなのか、勝ち負けに対して大袈裟なほどに反応している。
とある学校の、とある日常の風景の映像。
「…私ね」
クッションを抱き、ソファーで身を小さくしてテレビを見つめていた彼女が、小さく呟く。
隣に座る翼には十分な音量で、彼はコーヒーを飲んだマグカップをテーブルに戻し、彼女に視線を向けた。
「昔、子どもの頃は…翼は、じゃんけんが苦手なんだと思ってたの」
「………ふぅん」
「いつも、負けてたから。気付いたのは、小学校の高学年の頃かな。あぁ、そっか。負けてくれてたんだなって」
思い出し笑いを零す彼女に、翼が視線を逸らす。
この仕草は照れ隠しだ。
それに気付き、ふふっと笑う。
「翼は動体視力が良かったし…私の癖なんて、お見通しだったもんね?」
「………まぁ、ね」
そっぽを向いたままの彼の肩に頭を預ける。
照れ隠しのために視線を逸らしてしまっているけれど、甘える事を拒まれたりはしなかった。
「ごめんね。本当はずっと、胸の中にしまっておこうと思ったんだけど…ちょっと、言いたくなったの」
こう言う反応だとわかっていたから、気付いても言うつもりはなかったのだ。
けれど…テレビの中の子どもたちを見ていると、伝えたい言葉が生まれてしまったから。
「…ね、翼」
「…ん?」
「ありがとう。ずっと…大事にしてくれて」
「………いいよ、そんなの…言わなくて。俺も大事にしてもらってるでしょ」
「…うん、そうだね」
椎名 翼 / 夢追いのガーネット