045.人の気持ちも知らないで

膝の上に上半身を預け、すやすやと眠る姿に苦笑する。

―――まったく、人の気持ちも知らないで…呑気なもんだな。

いっそ、起こしてしまうか、なんて考えるけれど、考えるだけで実行には移せない。
こんなにも無防備に眠る姿を見て、どうして邪魔が出来ようか。
その安心しきった表情は、エースの傍以外ではありえないのだ。
他の誰の元でも、彼女はこんな風に全てを預けきって眠らない。
それを知っているからこそ、優越感に浸る事の出来るこの時間は、エースにとっても貴重なものなのだ。

とは言え…健全な男子たる者、目の前で眠る最愛の人を前にして、何も感じないはずがなく。
別の一方ではまるで拷問のような時間だと思う自分もいたりするわけだ。

「…いっそ、猫のままで寝てくれよ」

それなら、邪な考えは―――抱かないと言ったら嘘になる。
人間の想像力は強かで、元の姿を知っているからこそ、脳内が目の前の光景をその姿に変換してしまうのだ。
けれど、触れられる近さに寝息や肌のぬくもりを感じない分、逸る胸の動悸は少しだけ緩やかだと思う。

「…起きないのか?そろそろ日が暮れるぞ」

誰かが聞いていたら、起こすつもりがあるのか、と笑われるような小さな声で問いかける。
早く目覚めてほしいと思うのは理性で、本能は彼女の安らげる場所の提供を続ける事を望んでいる。

「…んぅ…」
「…起きたか?」

小さく身じろぐ彼女に気付き、意識をそちらに向ける。
膝の上で姿勢を変えた彼女は、そのまま寝入っていった。

「ったく…仕方ねぇな」

夕食時になれば、誰かが呼びに来るだろう。
そうしたら、彼女は間違いなく目を覚ます。
それまでは―――もう少しだけ。

エースは穏やかに笑みを浮かべ、その黒髪を撫でた。

ポートガス・D・エース / Black Cat

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11.11.25