043.条件反射
「………」
窓辺に置いた椅子に腰かけ、ぼんやりと外を見つめる彼女。
アフタヌーンティーを用意していたメイドがその様子に気付き、「奥様?」と声をかける。
その声により、漸く気付いたようにハッとした表情で振り向く彼女。
「どこかお加減でも…?」
「いいえ、大丈夫です。心配しないでください」
いつもと変わらぬ様子で、けれど心配させてしまった事に対して、困ったように微笑んだ彼女。
一度はメイドを捉えたその眼差しは、再び窓の外へと向けられる。
この窓は屋敷の正門に面している。
その立地条件と、窓から見える風景を見て、あぁ、と気付いた。
「旦那様はもうすぐお戻りになられますよ」
反射的に振り向くと、微笑ましいと語るニコニコ笑顔と対面した。
「…もう。そんなにわかり易い…ですか?」
「ええ、とっても可愛らしいです」
「ディーノくんが帰るまでに何とかしないと…」
そんな事を心配して、自分の頬に触れる彼女に、杞憂を…と心中で小さく苦笑。
今は寂しそうな表情を見せている彼女だが、ディーノが戻ればその表情が輝く事くらい、この屋敷の誰もが知っている。
彼もまた、彼女をその目に映すと、こっちが照れてしまうくらいに表情や空気を変える。
この屋敷の人間は、そんな二人を眺めるのが好きなのだ。
窓に背を向けて、自分の頬を挟み込んでいる彼女の向こう。
窓ガラス越しに、正門を越えた黒塗りの車が見えた。
「お帰りのようですね」
「え、あ…そうですね」
ここからでは見えにくいけれど、車のウインドウ越しに、あの美しい金髪が見えた。
途端に、彼女の表情が変化する。
寂しげなものから一変し、甘く、そして穏やかな笑みがその顔に浮かんだ。
「アフタヌーンティーは後からご用意しますね」
「ええ、ごめんなさいね。ありがとう」
腰を上げて部屋を出ようとする彼女に、そう声をかける。
振り向いた彼女は綺麗な笑顔でお礼を残して、足早に廊下に消えて行った。
今しがた用意したばかりのティーを片付け、二人分の用意をするためにキッチンへと戻る。
「ボス」
「ん?」
「窓辺」
運転していたロマーリオが、正門を越える間際にそう呟いた。
窓辺がどうした?と首を傾げつつ、腰を屈めてウィンドウ越しに屋敷を見上げる。
真ん中から右へと視線を動かし、一つずつの窓を見つめていく。
その途中で、ディーノの表情が緩んだ。
「待ってたみたいだな」
「…ああ」
玄関に着くまでの時間すら惜しいとばかりに、シートに広げていた書類を片付け始める。
ゆっくり安全運転で進んだ車が玄関に横付けされるのと同時に、玄関ドアが開いた。
ロマーリオがドアを開くのを待たず、車を降りる。
「お帰りなさい」
「おう、ただいま!」
直前でブレーキをかけてしまった彼女の腰を引き寄せ、抱きしめる。
腕の中で伸び上る様に頬にキスをくれた彼女に、お返しとばかりに優しく口付けた。
ディーノ / 獄寺くんのお姉さんシリーズ