042.次の信号が変わったら
「…ん、もう。行くんじゃなかったの?」
唇を塞がれる合間にそう問いかける。
今日の予定は、少し遠い所までのドライブ。
目的地はなく、季節の風景を楽しみながら車を走らせようと言うだけの予定と共に、家を出た。
多少、咎める様な口ぶりを含ませたけれど、その口元に浮かんでいるのは穏やかな笑み。
拒否しているわけではない、言葉遊びのような雰囲気に気付いている蔵馬もまた、その口元に笑みを浮かべた。
そうして、子どもの悪戯のような軽やかさで彼女の唇を啄む。
「もちろん、行くよ。でも、もう少しだけ」
「…さっきからそればっかりよ」
「じゃあ―――あの信号が変わるか…落ち着いたら」
目線で示した信号は、黄色の点滅。
赤く染まり始めた山道を、順調に進む車。
流れていく風景を横目に、彼女が口を開く。
「感応式の信号で、一日に数回しか変わらない信号だって…知ってたのよね?」
返事の代わりに、蔵馬はそっと、口角を持ち上げた。
南野 秀一 / 悠久に馳せる想い